Ichii

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終点

コントローラーを握りしめ、勝つ為の最善策を頭で練り上げる。そこそこの時間やり込んできたゲーム、あとは目の前に立ち塞がるラスボスを倒すだけとなった。
地道に敵をしばき倒していたお陰でキャラクター達はそれなり以上に育成されている。あとは体力管理とMP管理にさえ気を付ければ、勝算は充分にある。
ラスボスが繰り出す強力な攻撃をしのぎながら少しづつ体力を削り取っていく。ここまで来た俺たちならこの壁も乗り越えられる。そうだろ、相棒。
少しづつ盤面が進んでいく画面をしかと見据え、次の手を考えながら思考の片隅ではこれまでの旅路がエンドロールみたいに流れていた。
これで最後だ。主人公の放った光の斬撃がラスボスへと叩きつけられる。体力ゲージはついにすっからかんとなった。恨めしげによろめいたラスボスは惜しむように、やがて粒子となって消えていった。
軽快な音楽が流れ出し、見知らぬ誰かの名前が画面を通り過ぎていく。
「終わっちゃったなぁ。」
手の熱の余韻の残るコントローラーを手放し、画面いっぱいに映されたエンディングをぼんやり見つめた。世界はすっかり平和になったようで、これまで各地で出会ってきた人々が笑顔で登場してはフェードアウトしていく。苦楽を共にした仲間たちもそのなかにいて、終わってしまったという実感がじわりと胸を締め付けた。達成感は確かにあった。メインストーリーだけでなくサブクエストも網羅してきたここまでの道のりは長く、それらを乗り越えてきたという、やり遂げたのだという気持ちは大いにあった。
けれども、まだ彼らと旅をしていたかったんだと、俺を置き去りにする画面を前に、ぽつりと呟いた。

8/11/2023, 4:59:32 AM