薄墨

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美しい派手な尻尾を引き摺りながらゆく。
砂埃は、尾羽の間に積もっていく。

重くて長い矜持と自分への期待を引き摺って今日も行く
嗚呼、孔雀としてではなく、翡翠のように生きられたら

いつか本で読んだ一節が、頭にリフレインする。

何一つ守れなかったヒーローが行くべき先はどこなのだろうか。
尻尾を引き摺りながら、考える。
砂埃が舞い上がる。

痩せこけた体にまとわりついている緋色の尾羽_もとい不死身のマント。
これを授けられた時、心は甘美な誇らしさと鎮重な責任感で満ちていた。
士官学校を主席で卒業し、次期ヒーローとして認められたあの日。

あの日が、この緋色の尾羽が最も美しかった時かもしれなかった。

ヒーローとして行った事は、すべて空回りした。
じわじわと事態は悪化した。
そして、戦いは終結した。どちらも不戦敗という形で、平和が訪れた。

不死身のマントを授けられ、矜持と栄誉の不死身能力を授けられたヒーローたちの掌に残ったのは、砂埃と死の灰だけだった。

何もできなかった私たちヒーローは、擦り切れた心身に、過去の色褪せた誇らしさを纏って、当て所もなく歩いていた。

火緋色の尾羽はただ重いだけだった。
あの時感じた誇らしさも、重たさも、緋色の鮮やかさも。
今となっては重たすぎるだけだ。

全てが砂と化した世界は。
守るものがなくなった世界は。

喉の渇きがひりつくように痛かった。
視界は眩暈がするほど広かった。
耳鳴りがするほど辺りは沈黙に満ちていた。

一歩毎に膝が折れるほど、緋色の尾羽は重たかった。

私たちの他には何もない。
何も持っていなかった。
過去の誇らしさ以外には。

孔雀としてではなく、翡翠のように生きれたら
長すぎる尾羽を引き摺って行く。
砂がただ、緋色の尾羽を汚していた。

8/16/2024, 1:59:23 PM