田舎じゃ家常茶飯の事とはしばしば言われもしたし、事実そう思ってもきた。けれど、その日の気分もあったのだろう。事故の痕跡をまざまざと目にして、わたしの心には特に遮るものも無く、可哀想だなと素直に思った。
車を運転していた母は如何にも鄙びた顔と物言いで、同情なんかしたら猫の霊が憑くよなんて言う。わたしは思春期に有りがちな反抗心の暗然と燻るのを自覚しながら、車窓の下方へぼんやりと視線を落とすと、なお一層、置き去りにされたまま退きゆく後景に向かって哀憐を注いだ気になった。
それから一月も経った頃だろうか。庭に出ていた母が呼ぶ声がした。縁側に出ると、まだ稚気ない仔猫が居て、こちらを見ている。わたしの心裡にいつかの光景が薄暗く蘇る。
気づけば足首の辺りに柔らかな温もりが触れる。そして、甘やかな声を上げながら、まん丸な瞳がわたしを見上げている。
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優しくしないで
5/2/2023, 5:29:47 PM