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お題:風邪

 珍しく、本当に珍しく風邪を引いた。何年振りだかわからない。しかも、熱が出て外出が憚られるほどの風邪だ。当然任務はキャンセルになり、自宅待機を言い渡された。流行病だと困るので病院には行ったが、幸い陰性だったことだけが救いだ。

「七海サン、戻りましたー! 体調どうっスか?」
 夕方、ちょうど仕事帰りだと言う猪野に、必要なものを買って帰ってきてもらえて助かった。病院にはなんとか行ったが、買い物をして帰ってくるのはなかなかしんどい体調だったからだ。
「おかえりなさい。買い出しありがとうございます。助かります。症状は朝よりは随分マシになりましたが、まだ熱は下がりませんね」
「そっか、それは辛いですね」
 ベッドで横になっている七海に歩み寄り、そのおでこに自身のおでこをくっつける猪野。
「猪野くん! ちょっと…!」
「ほんとだ。まだまだ熱いッスね。辛そう…」
「君に移すわけにはいきませんから。あまり近づかないほうがいいですよ」
 七海の様子を見て眉を下げる猪野に対して、自分から距離を取るよう諫める七海。そんな中で、猪野が良いことを思いついた! とばかりに提案をする。
「ねぇ、七海サン? 運動して汗かいたほうが風邪が治るっていいません?」
「?」
「これから二人でたっぷり運動して、風邪なんかやっつけちゃいま…」
「ダメです。今晩は君は私に近づいてはいけません。君まで風邪を引いてダウンしたとなれば現場は大混乱でしょう。それは避けなければなりませんから」
 七海の言うことは至極真っ当だった。七海が乗ってくれたらラッキーくらいの提案だった猪野は、ここは大人しく引くことにした。
「じゃあ、風邪が治ったら覚悟しててくださいよ♡」
「……考えておきます」

 風邪が治ったら治ったで、開けた穴をカバーする任務が続き激務激務で、しかもすれ違いも多く、二人の時間なんてほとんど取れなかった。それでも、会えない時間が長いほど想いは募るもので。いつかくる次を心なしか楽しみにしている二人がいた。

12/16/2024, 2:25:08 PM