「ヤバい、挟まれた」
都市にそびえる展望塔の最上部には、俺とシエラが背中合わせでようやく立てるほどの狭いスペースしかない。まさかこんなところで、最大のピンチを迎えることになろうとは。
「グラン、そっちの状況はどうかしら?」
後ろからシエラの声がする。下を向くと塔の側面に設置されたはしごを、全身真っ黒な戦闘服に身を包んだ集団が登ってくるのが見える。
「武装部隊が10人ほど。そっちは?」
「こっちも同じ程度よ。どうする?」
後ろからシエラが答える。
「ここにいても大きくは動けない。体制を立て直さないと」
「でも、この風が厄介ね……」
シエルの言葉で空を見上げる。上空には雲が大きく動くほどの風が吹く。
「そうだな、二人一緒には飛べない」
俺は背中に背負った小型の収納式スカイグライダーを確認する。紐を引けば翼が飛び出し、ここから飛び立つことはできる。しかし、重量制限があり、シエラを抱えて飛ぶのはリスクがでかい。
「そっちは飛べるか?」
俺がシエラに問いかけると、シエラは背中を少し動かす。
「翼を広げられないこともないけど、あなたを抱えてはムリね」
状況は同じか。こうなれば方法はひとつしかない。
「場所を変えて落ち合おう。今は二手に分かれるのが正解だ」
俺は地面を蹴り、同時に紐を引く。背中の装置から勢いよく翼が飛び出し、俺は、地上に向けて飛び立った。
俺が空中で振り返ると、シエラも飛び立つ準備をしていた。シエラの前方に10人ほどの堕天使が迫っている。
「分かったわ。例の場所で落ち合いましょう」
シエラは背中を小さく揺らすと、バサリと白く雄大な翼を広げる。白い羽がひらひらと落ち、はしごを登る武装部隊の顔をかすめる。
シエラは俺の方をちらりと振り返って軽く微笑むと、大きな翼を羽ばたかせながら空へと飛び立っていった。
#君と飛び立つ
8/21/2025, 10:59:19 AM