「俺が『書く習慣』をインストールして最初のお題が、『遠くの街へ』だったわ。懐かしいな」
お題の「遠く」のその先を、てっきり「…」の三点リーダだと思っていた物書きである。
ウィキによれば、「四点リーダは新聞で使用されることもある」とのこと。
『最強寒波の影響続く 春まだ遠く....』なんてタイトルの新聞を読むネタを考えたものの、
類似のネット記事を実際に検索したところ、使われていたのは「....」ではなく「…」。
なかなか珍しい気がする。
この物書きも、投稿で使用するのは四点リーダや二点リーダ✕2ではなく、三点リーダであった。
「ただ、昔は五点ってのもあったらしいな」
ところで「…」には、「そこに本来書かれているハズの文章の省略」のような使い方もあるらしい。
「遠く【この先は省略されていて読めない】」か。
それとも「遠くで鍵が開く音がした」だろうか。
――――――
お題が「遠く....」とのことなので、今回はフィクションファンタジーなおはなしをご用意しました。
「ここ」ではないどこかの世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこは世界から別世界への渡航申請を受理したり、
滅びそうな世界からこぼれ落ちたチートアイテムが悪さをしないよう、事前に回収したり、
あるいは、その世界が「その世界」として独立して、独自性を主張できるように、
他の世界からの過度な干渉や過剰な移民流入を、取り締まったりしておりました。
特にここ数十年は、管理局と反対の信条を持つ、「世界多様性機構」との衝突が増えておりまして。
世界多様性機構は、発展途上の世界を見つけては、
先進世界の技術を勝手に導入させたり、
滅んだ世界の難民を密航によって移住させたり。
時には新しく生まれた世界に所有権を主張して、
そこを、滅亡から生き延びた難民たちのために、「終の住処」として徹底的に整備したり....。
世界の独自性を保全したい管理局と、
世界の多様性を推進したい機構。
過剰な干渉を「世界のためにならぬ」と警戒する管理局は、機構の動向に常に目を光らせていました。
さて。 ある日、管理局法務部の部長さんは、
生まれたばかりの世界の視察に来ておりました。
「こっち」の世界からも、
世界線管理局がある世界からも、
その世界は遠く....遠く、離れておりました。
「魔力無し。物理法則不安定。多元宇宙持ち。
なかなか珍しいタイプの世界だな」
新しい世界を構成する情報と、それが成長する様子を注意深く観察しながら、
法務部の部長さん、世界の片隅に腰掛けて、タバコなど吹かして、小さなため息を吐きました。
その世界はとっても静かで、とっても穏やかで、
しかし、どの世界より不安定でした。
生まれたばかりの世界の中に、宇宙ができて、星ができて、文明が生まれる過程はいつも違います。
それらはまさしく、多様性に溢れていて、ゆえに唯一無二として尊重されるべきなのです。
少なくとも部長さんは、そう考えておりました。
「この世界も、機構のやつらが目ざとく見つけて、難民を送りつけて、一気に開発しちまうのかな」
再度ため息を吐く部長さん。密度のルールが乱れて氷が一気に蒸発していくのを観察して、
なにやらしんみり、おセンチです。
「不安定を全部慣らして固定して、安全な世界に無理矢理もっていって、滅んだ世界からの難民を大量に連れ込んで、新しい故郷に再開発して。
新しい世界で滅んだ世界の続きをさせるワケだ」
そうなるのかな、
部長さんが考える間に、重力が一瞬そっぽを向いて、また元通り、戻ります。
そうならないでほしいがな。
部長さんが思う間に、電気が光を追い越して、エネルギーを周囲にまき散らします。
「不安定」が形を得たようなその世界は、ゆえに独自の成長過程でもって、
光を生み出し、影を定義づけて、そろそろその世界でいうところの「3日目」を迎える頃合いでした。
「これからどうなることやら」
三度目のため息を吐いて、管理局の部長さんは静かに、新しく生まれた世界から立ち去りました。
それは遠く....遠く、どこかとても離れた、まだ誰も知らない世界の出来事でした。
最終的に部長さんの予想通り、その世界に異世界人が大量渡航してきて世界の開発を始めるものの、
それはまさしく、遠く....遠く、未来の物語でした。
しゃーない、しゃーない。
2/9/2025, 6:53:00 AM