シオン

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 いつもの通り、サルサが目を覚ませば、いつものように夜明け前であった。
 髪をとかし、顔を洗い、服を身につけてもまだまだ時間がある。部屋の壁に掛けられた時計は五時を示していてまだまだ時間があった。
「……いつもより、早い」
 小さく呟いたサルサは、さてどうしようかと窓の外を見つめる。
 青い月が出ている。
 ウィルは前に『人間界と共通しているのは青の方』なんて説明をしたが、サルサにとっては青い月も見慣れないことに代わりはなかった。人間界の月は光こそ青白い、などと表現されることがあろうとも、基本的には白く見えるのだから。
 赤い月ほどの怖さも圧迫感もないにしろ、青い月もまた不気味な見た目をしている。
 サルサはため息をついて窓から目をはなし、テーブルに向かうことにした。
 ノートを開いて昨日のことをまとめる。
 実践は少しずつ少しずつ進めていくために、一週間に一回にする、と伝えられたことを思い出す。まだ『魔法のようなもの』に慣れる段階だから、毎日やればかならず身体を壊す、と補足したのはプロムの方だったらしい。厳しい言葉の中に優しさを見出せる人だ、などとサルサは思った。
 昨日の勉強は『魔法のようなもの』についてであった。基本的に備わっている能力が高い者はそのまま、そうじゃない者はサルサのように星のキーホルダーで使うということ、星のキーホルダーにも相性があるから持っていても使えないことや一回使うだけで術者自身が疲れたり星のキーホルダーが壊れることもあることをウィルは至極丁寧に説明した。『貴方と貴方の星の欠片の相性が良くてよかったです』と微笑まれたことをサルサは思い出した。
「……相性が悪かったら何度も作り直すことになる、って言ってたな……」
 星の欠片が降るのは毎月十二日、キーホルダーになり得るのは黄色の星の欠片を五個だとすれば簡単だとサルサは思っていたが『使う星の欠片の種類と数によって効果は異なるんですよ』とウィルに窘められたのだった。
 相性が悪くて作り直せば時間も材料もどんどん莫大になっていく。あまりに時間がかかるようならそこでここでの生活を終わりにされる可能性もあった。つまりはサルサは幸運だったのだ。
 そんな思考を巡らせてる間に空の色は青と赤が混じってきた。静かに静かに夜明けが訪れようとしていたのだ。
「…………夜明けは、綺麗なんだけどな……」
 サルサは部屋に差し込んできた光に気づいて窓の方に目をやった。
 赤が青を押し倒すように段々と空を赤が覆い尽くしていく。音もなく、世界が朝になろうとしていた。

2/7/2025, 9:29:17 AM