猫背の犬

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これまでずっと秘めていた想いをついに手放すときがやってきた。
「君が真相に辿りつけたとき、本当の僕が見えてくるかもね」
「は? どういう意味だ? ちゃんと説明しろ」
「そのままの意味だよ」
「だからそれがわかんねぇって言ってんだろ」
「僕が教えなくても、きっと胸の中に浮かんでくるはずだから。——僕の言葉に疑問を抱いているうちは説明してもきっと伝わらないと思う」
「なんでいつもそうやって上っ面しか話してくれないんだよ、お前は」
「はは、上っ面か……それはごめん」
「おい、待て——」

肩を掴む手を振り解いて僕は海の中へ体を沈め、潜っていく。
君は僕に辿り着けるのだろうか。君が僕に辿り着けたとき、それは僕が手放したものを君が受け取ってくれたってことになるんだけど、そんな夢みたいなこと起きるわけないよね、とか思いながら海中を浮遊する。色濃い絶望の中に居ながらも、僕はどこか期待してるのかもしれない。小刻みに波打つ海面を海底から眺めていても、やっぱり君が降りてくる兆しはない。瞬きをすると淡く揺れる視界。潮がまつ毛を揺らすたびに、小さな気泡が眼前を蝶のようにひらひらと舞う。海面から差し込むひとすじの光に人差しを伸ばしてみる。透ける指先が綺麗だ。なのに、僕の心は霞んでいる。僕は哀れな人魚。君が僕を好きになってくれなければ、泡になってしまう。泡になって消えてしまう。僕の胸に生まれた熱が君に伝わっているのなら早く迎えに来てほしい。そんなふうに思うのは重たすぎるだろうか。この海でずっと待ってる。君を。君だけを。君の気が向いたらでいいから、気が向いたら僕を救ってほしい。それだけが僕の望みだから。

7/12/2023, 12:24:06 PM