ワンピースのバックファスナーを開けるときの、ちいいいと言うかすかな音が世界で一番好きだ。
「ん。ごめん、引っかかっちゃった」
君の服を脱がせているとき、ファスナーが布地を噛んだ。
苦戦して外そうとしていると、
「珍しいね。さいきん、手馴れてきたなあって寂しく思ってたとこだよ」
君は笑った。
「はじめのうちは、心臓バクバクもんだったからね」
付き合いだした時のことを思いだし、僕は懐かしくなった。
君は僕の初めての人。
「よし、外れたよ」
「噛んだのは服じゃなくて、私のお肉じゃない? 最近太っちゃって」
服のサイズ、ワンサイズあがっちゃったの、と恥ずかしそうに言う。
「幸せ太りってことだよ」
「気休め言わないで。ダイエットして絞ろうかって、けっこう深刻なんだから」
「あのね、言っとくけど、この世に変わらないものなんてない。歳を重ねれば人はふくよかになるし、服だってワンサイズ、ツーサイズ大きくなるよ」
気にしない気にしないと一休さんみたいなことを口にしてやる。
「慰めてくれてどうも」
笑った君を僕はベッドに横たえた。そっと。
歳を取れば人はふくよかになるし、服のサイズだって上がる。
だけどただ一つ、変わらないものがある。ーーそれは、君への僕の愛さ。
#変わらないものなんてない
12/26/2024, 7:30:33 PM