ゆかぽんたす

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「やってしまった……」
どんなに嘆こうが悔やもうが、もう時間は巻き戻せない。
仕事上がり、職場の同僚数人で飲みに行こうかという話になった。今日は金曜日、それも給料日だった。行くしかないでしょと、満場一致で夜の街に繰り出した。時間も代金も気にせず騒ぎに騒いで飲んで食べて笑い転げてたまに寝落ちしそうになって。ふと、時計を見たら日を跨いでることに気付いた。タイミング良く、そろそろ帰るかー、なんて先輩が言い出して、会計済ませて(勢いに任せて一番年上上司が全額払ってくれた。ご馳走様です)、ものの数分でみんな撤収してしまった。良く考えたら私だけが皆と使う路線が違う。でもって終電も皆より早い。慌てて駅まで走ってみたけど全くもって意味なかった。最後の電車は、もう30分も前に行ってしまった。
「あーあ」
タクシーでも拾おうか。そう思ったけどこんな時に限って1台も駅にはいない。みんな考えることは同じ。仕方なく近くのビジネスホテルでも探そうとスマホを取り出すと。ちょうどメールを受信したところだった。
『明日は何時にする。つっても今日か』
道向かいに住む幼馴染からのものだった。明日、ではなく日付的に今日は、夕方にずっと公開を楽しみにしていた映画を一緒に観に行く約束をしていた。私はすぐさま彼に電話をかけた。
「それどころじゃないんだってば!」
『……なんだよ急に』
いきなりかかってきた私からの電話に少し不機嫌な様子だった。けどそんなこと知るか。
「助けて、終電逃した。迎えに来てくれないでしょうか」
『ハァ?なんで俺が』
「あんたしか頼れる人がいないの、お願いします」
お願いしてる側なのに態度がでかいな、って自分でも思ったけど、もうそんなこと気にしてられない。それに、私が頼み倒すと彼は絶対に断れないのを知っている。だから気にせず勢いよくお願いできる。性格悪いな、とちょっとだけ思ったりする。
『ったく。どこにいんだよ』
「やった!ありがとう!今日の映画代は私が出すからさ」
『当然だろうが』
「いやぁ助かった。やっぱり持つべきものは幼馴染様だね。友情ばんざい」
ひと呼吸分の沈黙があった後、彼は今から出る、とだけ言って電話を切った。なんだか、最後だけ元気がなかった気がする。
やっぱり迷惑だよね。常識的に考えて、この時間に迎えに来てくれなんて。キレてもいい話だ。それでも彼は来てくれる。私との、友情のために。
お酒が抜けてないせいからか、いつもより饒舌になっていた自覚があった。けど、彼が電話の向こうでどんな顔をしてるまでかは分からなかった。でも、笑ってなかったと思う。声が沈んでたから。
彼がここに来てくれるまで30分弱ある。とりあえず、コンビニ行ってお茶でも買おうか。アイツの好きな炭酸のジュースも買って待ってよう。これで機嫌、直してくれるかな?

7/24/2023, 1:16:36 PM