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目を覚ますと、灰黒色の壁が見える。床は、油と泥で汚れており、彼はそこに横たわっている。
床に手をつき、体を起こす。体がひどく重たい。いくら力のない幼い腕だとしても、たかだか120センチの体を起こすのにこんなにも力を入れなければならないものなのか。
やっとのことで、体を起こし、目に入る壁とは反対の壁に背中を預ける。汚れたお尻を浮かすのとは出来ず、その場にうなだれる。
目前にはシャツの上からでもわかる酷くやせ細った自分の体。
彼は少し息を整えてから、シャツの下から中をまさぐり、透明な袋を取り出した。袋の中には、所々に黒い斑点のついたパンのかけらが入っている。
まだ食べれそうなことに少し安堵し、中身を取り出す。掴んだ袋を手から離し、洋袴(ズボン)の衣嚢(いのう)をまさぐる。
中からその小さな手に収まるほどの石のようなものを取り出した。石の底は平で、楕円の表面には細かな彫り細工が施されている。泥と油でその光沢を失っているが、磨けば今にも輝きそうだ。
彼は石の表面を少し擦って、横の突起物をを親指で押す。カチと音を出しながら楕円の表面が内扉のように開いた。中からは男女とその男女に抱えられた幼い子供が顔を出した。三人は、屈託のない笑顔でこちらを見ている。
彼はパンをかじりながら、三人を眺めて悲しそうに笑う。
ビルの隙間から金属と地面の擦れる音が木霊した。

11/21/2023, 7:04:08 AM