かのこ

Open App

『友情』2023.07.24


 頼りにしてる。なんて言われて、喜ばないやつがいるだろうか。否、いない。俺はなまら嬉しい。
 彼は大学時代からの付き合いで、同じ演劇部に所属していた。そして、今は同じ事務所で同じ演劇ユニットを組んでいる。
 ここまでくると腐れ縁である。
 昔の彼は有り体にいえば、暴君でガキ大将だった。よくメンバー間で衝突していた。
 ある時、うちの最年少と意見が真っ向からぶつかり、大喧嘩になったことがある。胸ぐらを掴みあって、乱闘でもしそうな雰囲気だった。俺や他のメンバーもそれを見て、今までたまりにたまった憤懣をぶつけ、みんなでやいのやいの言い合ったのだ。
 結果的に、スタッフに止められるカタチで喧嘩はおさまりはしたものの、その日は稽古どころではなくなった。
 いい歳をした大人が、情けないものである。
 しかし、そのすぐあと彼から飲みの誘いが来た。しかも、二人きりで。虫のいい話だとは思ったが、こういう時の彼はなにか真面目な話をしたい時だと察した。だから、受けた。
 二人で飲みながら、様々な話をした。先のことはお互いに謝らなかった。
 激情に任せることなく、まるで世間話をするかのように、つとめてフランクに。
 そして、閉店まで語り合って、彼が奢ってくれることになったから、素直に甘えた。
 店を出て、駅で分かれる直前、彼は
「頼りにしてる」
 と、ポツリと言った。
 だから、俺も
「頼りにしてる」
 と、答えた。
 それ以上言うのは、野暮というものである。

7/24/2023, 10:56:46 AM