saiki.k

Open App

2人で映画を見てた。恋人同士の片方の記憶が失われる映画だ。
隣で俺の恋人はすんすんすすり泣きをしている。俺は泣くところを見られたくなくて、ティッシュで目の縁を押さえて誤魔化してるけど、全然気づかれてるのはわかってる。
だって映画が終わった途端、君は俺をチラッと見てクスッとひと笑い。

「…んだよ」
「べつにー」

君はニヤニヤ。俺は照れ隠しにぶすっとしながら話を変えようと君に聞いた。

「なぁ。もし記憶なくなったらどうする?」
「今見た映画みたいに?」
「そう…今までの生活も俺のことも全部忘れちゃうの」
「えー…」

君は何度か首を右に左に振って、んーと思案顔。

「俺ねー、俺たちが出会ったのって奇跡だと思ってるわけ」
「なに急に」
「だからね。記憶なくなってもこれだけは覚えてて欲しいな」
「俺のことをってこと? それはズルいじゃん」

ううん、違うよ。
君はそう言って両手を組んで目を閉じて、祈るように言った。

「神さまお願い。奇跡をもう一度起こして、俺の恋人に会わせてくださいって――会えば、会えば絶対に、絶対にわかるからって」




▼奇跡をもう一度


10/2/2023, 10:27:27 AM