夜叉@桜石

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ため息が出る。
重たくて、どろどろした、暗いため息。
昼頃から始まったパーティーには、世界中の大物が集まり、世間話の裏で探り合いをしている。
血縁者の付き添いで連れてこられた私は、笑顔を貼り付けて当たり障りのない話をしていたが、今はバルコニーに出て風にあたっていた。
空には星が見え始め、青と白のグラデーションがなんとか私の心を支える。
このまま誰にも声をかけられないまま、パーティーが終われば、仕事ができる。嫌な空気から逃げ出して、書類作成で今日の出来事を塗りつぶしたい。
ため息をつき、街の灯りを眺めていると、人の気配が近づいてきた。そろそろ移動しようか。
そう思って立ち上がろうとした時、その男は最悪の言葉をかけてきた。
「私と一曲踊りませんか?」
屋敷の中ではダンスパーティーが始まっていた。
きらびやかに着飾った男女が、音楽に合わせて踊っている。
わざわざ寒い外に出ているなんて、関わりたくないと言っているようなものなのに、よほど空気が読めないらしい。まったく、どこの御子息だろうか。
適当に断ろうと振り返ると、男は突拍子もないことを言ってきた。
「それとも、二人で抜け出そうか」
彼だった。そういえば彼も今回は名家の御子息だったか。
本当に、おかしいな。こんなに着飾って、昼からずっと耐えてきたのに、この一言で帰ろうかと思えるのだから。
帰ろうかな、ノルマは達成したし、祖父も許すだろう。
「着替えたら、和菓子でも買って帰ろうか」
そう言って私は、屋敷の一角へ向かう。
出席者の着替えのために、家主が用意した部屋だ。
彼は驚いた顔をして、私についてくる。まさか、乗ってくるとは思わなかったんだろう。
何度も、生きてきた、私達二人だけの秘密。
ずいぶん昔に、みんなでかわした約束。
もう君しかいないから、二人だけ。
私が、君たちからの誘いに乗らないことはないよ。
なんといっても、唯一の仲間だからね。
必ず、願いを叶えよう。どんなときでも。
今の時代に合せた服装に着替えて、外に出る。
星のような街の灯りは、私を暖かく出迎えた。

5/4/2024, 2:46:59 AM