先日、想い人とようやくお付き合いができるようになって、少し舞い上がっていた。
ああ、彼女に会いたいな。
とはいえ、彼女は俺の事情を考えてしまい、わがままを言わないタイプ。俺が彼女に惹かれたところでもあるんだけど、もう少しわがまま言って欲しい気持ちがある。だから先日、そう伝えた。
そう言えば、今週は会えていないなぁ……。
……会いたいな。
そんなことを考えているとスマホが震える。咄嗟にスマホを見ると彼女からの電話だった。
「どうしたの?」
『あ、おはようございます』
「うん。おはよ」
『声が聞きたくなって……電話かけちゃいました!』
誇らしく言い切る彼女なんだけど、その内容があまりにも大したことないと言うか、些細と言うか、規模が小さくて顔がにやけてしまう。
それが彼女の精一杯だと言うのも分かるから吹き出さないよう必死でこらえた。
『私、頑張ってわがまま言ってみました!』
電話越しでもドヤァッと胸張って鼻高々としている彼女の姿が想像ついて口を抑えた。そうしないと吹き出しちゃう。
「嬉しいよ」
『えへへ、私も声が聞けて嬉しいです』
胸が暖かくなる。
本当に大したことないのに、これすら彼女の全力のわがままなのだから愛しさが込み上げる。
「ねえ、声だけでいいの?」
『え!?』
「俺に会いたくないの?」
『あ……えっと……会いたいです!』
即答できないのが実に彼女らしい。でも決めたら言い切るもんだから口角が上がる。
「会いに来てよ」
『え!?』
「会いたい」
俺もわがままを言ってみる。俺もこれくらいのわがまま言うんだから、彼女にも言って欲しい。
その思いが伝わったのか、電話越しに彼女も少し考えている。
『……えっと。こ、こっちに来てください』
おっと?
躊躇いながらもわがままを言ってくれて、俺は嬉しくなる。
「分かった」
『え!?』
ほら、人の良さが出ちゃってる。
「なんで、驚くの?」
『だって……迷惑じゃ……』
「俺に会いたくないの?」
『会いたいです!』
「ブハッ!」
『え、なんですか!?』
もう笑いを耐えられずに笑ってしまった。
「ううん、嬉しいよ。今から会いに行くね」
『……はい』
「じゃ、また後で」
『はい……あの!』
「うん、どうしたの?」
躊躇いながらも息を飲みハッキリと言葉にしてくれた。
『気をつけて、来てくださいね』
精一杯のわがままだけれど、本当の心配の気持ちを俺に伝えてくれる。
「……ありがとう、すぐ行くね」
『はい、待ってます』
俺はタイミングを見て許可をもらい、彼女のいる職場にバイクを走らせた。
おわり
三四四、「こっちへ恋」「愛にきて」
4/25/2025, 2:22:04 PM