NoName

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『!』という文字を1週間も眺めていた。
LINEを開いて上から5番目、右端には赤い文字で『2』と表示されている。つまり、私はこの人からのLINEを2件未読無視していた。

「ねぇ、どう思う?」
「とっとと開けば良いじゃない」

友達はもはや呆れ気味だった。
未読無視をしている相手、それはついこの間辞めたバイトの先輩。辞めたその日に、私は先輩に思いを伝えていたのだ。
「もし怖いことが書いてあったら」
「別にいいでしょう? もう辞めてるんだし、追いLINEも来てないんだから」

それは一理あるとは思う。もしも怒っていたりしたら、追いLINEが来てもおかしくはない。それが来てないということは、素直に受け入れてくれたのだろうか。ポジディブに考えるなら、そうだ。

「でも、かなり年上だし」
「年齢は仕方ないよ」
「もし何か事情があったりしたら……あぁ!私、すごく失礼なことしちゃったかも!?」
「いやいや。失礼も何もないって! それ、店長は知ってるんでしょ? 店長が何も言わないなら、大丈夫だって! もう、うじうじしすぎ! 」

店長。そうだ、店長。
私はずっとこの件を店長に相談していた。その上で、先輩に思いを伝えた。店長は確かに『あいつの事、頼むよ』と、そう言っていた。つまり、私が自らの口で言わなくても……いずれ……。

「よし! 既読にする!」

私は思い切ってそのLINEを開いた。

「あ」
「どうだった?」
「これ」

友達に画面を見せた。


『教えてくれてありがとう。俺、ずっと恥かいてたんだ。言いにくいのに言ってくれてありがとう。る』
『!』


はみ出たビックリマークは、ただ誤変換を修正しただけだった。先輩は怒りもせず、ただ私の指摘を受け入れてくれていた。良かった、優しい人だから、今まで誰も指摘できなかったこと。でもどうしても心残りで、辞めるからと伝えてしまったこと。




『先輩の事、ずっと気になってたんです』
『先輩ってカツラですよね? いつもズレていて、お客さんも気がついてました。失礼なこと言ってすみません。でも、ズレてるのは直した方が良いですよ』

9/2/2024, 12:01:05 AM