作家志望の高校生

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8月半ば、ジメジメとした湿気と照りつける太陽が暑さをより一層強烈なものにしている。そんな中、俺はここに戻ってきていた。どこまでも続く田園風景。よくある田舎だ。
「暑……また気温上がったんかな?」
日陰も無いような場所に居る俺も悪いが、仕方ない。ここで待つしかないのだ。去年の同じ時期に会ったっきり、丸々一年会っていない幼馴染。彼に会うためだけに、わざわざこの暑い中待っているのだ。ぼんやりと発達していく入道雲を眺めていると、ふと玉砂利を踏む音がする。顔を向けると、案の定彼だった。この時期にここを訪れる人は多いが、彼の足音を聞き間違えるわけがない。
「……久しぶりだな。」
「おう、久しぶり!なんかまたデカくなった?」
俺が軽口を叩くが、無口な彼は返事もしてくれない。ジワジワと蝉が鳴く中、目の前に東京土産らしい小洒落た菓子が置かれる。真夏でも傷まないよう配慮してか、中身はクッキーのようだ。彼が黙って箱を開けると、綺麗に並べられた袋がいくつも目に入る。
「くれんの?サンキュ!」
色とりどりのクッキーから顔を上げ、彼と向き直る。小さい頃は俺の方が大きかった身長も、いつの間にか抜かされてしまった。
お盆の田舎。その空気は、線香の香りで満たされている。俺が物思いに耽っている間、何やら忙しなく動き回っていた彼がようやく止まる。
「……ここに帰ってきてもお前が居ないの、まだ実感沸かねぇよ。」
彼の視線は、俺を見ているようで見ていない。線香の煙が邪魔をして、俯いてしまった彼の顔はよく見えなかった。
一年ぶりに見た幼馴染の姿は、やっぱり前より大きくなっている。俺とお前の差は、広がるばかりで埋まりやしないんだろう。
「……俺を置いていくなよ……」
そのセリフだけは、誰のものなのか分からなくなってしまった。

テーマ:ただいま、夏。

8/4/2025, 10:55:03 AM