8木ラ1

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○ざめ 🔒
@zame_ra09
さよなら、俺死ぬねー
2025年1月28日 16:49


私は嫌いな人と心中することにした。

デマを信じて私を無視したり、デマが誤解だと分かったら急になれなれしく呼び捨てしてきたり。
ツイッターでリスカした腕の写真をわざわざ載せてるし。
いつも謝罪の言葉より言い訳の文字数の方が多いし。言い訳は自分を守るためなのがバレバレで、私はそんな彼のことがいつも嫌いだった。
元々なんとなく嫌いだから、小さな欠点が大きく見えているだけかもしれないけど。

でも
私は今日、その嫌いな人と心中する。

きっかけは彼の自殺宣言ツイートを見つけたから。彼は週に一回同じようなツイートをしており、いつも気にしていなかった私だが、その日は違った。


║送信║
○ ざめ 🔒 @zame_ra09 8分
さよなら、俺死ぬねー


返信先 @zame_ra09
○ 一緒に死のう︳


私は指を止めることなく淡々と動かす。そして、迷うことなく送信ボタンを押した。自分でも何を考えているのか分からないほど、その時の記憶はふわふわとしている。

どうせ彼は私と違って言葉だけだ。
彼が裏切らないよう、場所も決めて自殺時間も決めて一緒に同じ場所で死んでやろう。

嫌いなやつと心中したなんて遺書に書かれていたら、それはそれは面白そうだ。家族や警察の驚く顔が見てみたいが、死んだら見れないのが残念。
返信が来る前に、私はまだ決まってない今後のことについて頭を回らせる。

すると、透明なハートの横に、「1」の数字がついた。
私はすぐに口角を上げる。画面をじっと見つめた。

だが、数分待っても返信は来ない。
「ああ、ひよったな。」
私は眉をひそめて呟いた。だけどこれも想定内。私はLINEを開き、彼のアイコンを探した。
ゆっくりと画面をスクロールしながら一つ一つのアイコンに目を向ける。
「いたいた」
私は見つけたアイコンをタップし、文字を打ち始めた。
待ち合わせ場所、時間帯、自殺方法、遺書など、すぐに長文になったメッセージを完成させる。私は胸を踊らせながら静かに送信した。
すると先程のツイートのように一瞬で既読の文字が表示される。また無視されるのではないか少し不安を思いながらも、画面を見つめて彼を待った。

数分後、彼のメッセージが映し出される。

『じゃあここで。 』
メッセージと共に出てきたのは近所にある橋の画像。目を見開く。まさか本当に返信が来るとは。少し驚いたが、私はそのまま話を続けようとお気に入りのOKスタンプを送ろうとする。
「…いや、こっちだな」
やはりお気に入りを使わず、煽りが感じられるOKスタンプを送ることにした。

順調に話は進み、思ったよりも早く約束が決まる。そして決めた待ち合わせ時間が迫ってきた。
準備は万端。服も髪のセットも。
死んだらもうぐちゃぐちゃになるけれど、死ぬ直前までは死ぬほどお洒落な容姿で生きたい。

最後に、1文だけ書いた遺書をリュックに詰める。
びっしり書こうか迷ったが、死ぬくせに未練があるようでダサく感じるからやめた。

腕時計を確認しながら、軽すぎるリュックを背負う。そして何も知らない親に「いってきます」と一言放ち、笑顔で家を出た。

待ち合わせ場所に向かいながら、今までの不愉快な記憶を思い出す。

「お金がない子もいるんだよ」「家庭が酷い子だっているんだよ」
「貴方より辛い子いっぱいいるんだから」

何度も聞いた言葉。
相談する度に比べられた他人の不幸と私の不幸。
相談相手からは私の辛い気持ちはちっぽけだと言われ続けていた。

幼い私はその言葉を真に受けて、自分からまでもちっぽけだと言い聞していた。

だけど今、比べてきたそいつらに言ってやりたい。

「貴方のせいで人が自殺します!一生罪悪感抱いてあわよくばお前も死んじゃえ!皆皆、死んじゃえ!!」

道の真ん中で私は叫んだ。彼らに言われたように何度も何度も。
無意識に溢れる涙なんか気にせず、吐きそうになるほど叫び続けた。ぼやけた視界でぐにゃぐにゃの横断歩道を渡る。
先程すれ違った人や同じ歩道に歩いてる人が私を警戒しているのが分かった。

遠くの店前で立ち止まってる若い女性はスマートフォンを私に向けていて。先程すれ違ったスーツの男性は何やら警察を呼んでいるようで。


あー、私今から自殺する人なんだよー。


皆に言ってやりたかった。
大きな声で自慢してやりたかった。やっと、長年の夢が叶うから。

だけど、気が付くと私は数人の警察官に囲まれていた。あともうちょっと目的地に着くのに。
嫌いな彼に遅れるって連絡しないと。いや、連絡しないでいいかな。
彼がしたように、大幅に遅刻してやろう。
それで謝罪の言葉よりも言い訳ばかりをして…

「お母さんお父さんは?みせいね…?」
「一旦…しょで…はな……たい…だ……」




声がどんどん遠くなっていく。
視界がおかしくなって、自分を俯瞰してるような感覚になっていた。
ふわふわと全てがどうでも良くなる。
「ぁ」
すると突然視界が傾いた。同時に、ぷつりと意識が途絶える。

「…?…だ…じょ…ぶ?………!………────」




─目が覚める。
薬品の匂いが鼻の奥をくすぐった。視界には見慣れない乳白色の天井。
体を起こそうとすると、突然手を握られる。
「みひろぉ…みひろぉ…」
そこには瞼を真っ赤にして私の名前を小さく繰り返す母だった。私は笑って母に挨拶をする。が、母は怒った顔で私の頬を強くつねった。

どうやら彼が全て話してしまったようだった。
恐らく私の遺書に書いてあった彼の名前から事情を聞かれて答えたのだろう。どうせあいつのことだから涙目で都合良く答えたに決まってる。

「みひろ、死のうとしたの本当なの?」
母に真剣な眼差しで見つめられる。私はその視線に耐えきれず目を逸らそうとするが、顔を抑えられてしまった。

沈黙が続く。
何か言わなければと口をパクパク動かすが、小さい呼吸の音だけが室内に響き渡った。

「…あ…」
やっと声が出たと思った瞬間、目尻が熱くなる。
「…だって…だっでぇ…しにたかったん…だもん…!!」
視界の涙が母の姿を歪ませた。情けなく喚く私を、母は抱き締めた。多分、今の私は母よりも瞼を赤くしていると思う。
ナースさんにお静かにと注意されながらも、私と母の鼻をすする音が今でも強く印象に残っている。

その後は私と彼にそれぞれのカウセリングがつき、家に帰ってから親に今までの辛さを全て吐き出した。
親は黙って聞いてくれ、口を挟む祖父は母に黙らされていた。

それ以降、嫌いな彼の自殺宣言ツイートは見かけない。それでも私が彼を嫌いなのは変わりないが。

1/28/2025, 7:08:18 AM