「小さな勇気を大きく変える方法」と検索してみた。
ネットをぶらりと探してみるに、成功体験を積み重ねて、レベルアップをしていけば良いという。
「そんな時間があるかよ」
彼はネットに悪態の指を突き立て、画面をオフにする。
こういった時、やはりネットは使えない。
タイパ、タイパと時間を節約させているが結局のところ時間がかかることばかりサジェストされる。
彼の心の辞書には「努力」という言葉は載っておらず、今まで運と幸運だけでこなしてきた。
動物の食物連鎖で言えばライオン。
人間界で言えば皇太子。
けれど、今ばかりはそれができない。
ツケを払わされる、格好の餌食。お天道様が突然首を傾げて「はて?」と言っていそうなくらい、小動物になっていた。
運と幸運を与えてくれたのは両親である。
政治家、財界のコンサルタント。金は潤沢にある。
……今までは。
たった数時間前に電話が鳴り響いた。警察からだった。
「あの〜、〇〇さんのお宅でしょうか。たった今ですねえ、いわゆる交通事故が起きましてね〜。はい、はい、そうです、事故です。事故が起きましてね〜」
ひと言で言えば両親は轢き殺された。
仲睦まじく歩いていたところを車で、だ。
加害者は狂乱状態で「やったぞ! オレがやったぞ!」と叫び散らかしているそうだ。
現行犯逮捕!死刑確定!死刑執行人!
SNSではこのような言葉遊びでトレンド入りしている。
これからの出来事もひと言で言えればいいのに。
と思って、彼はもう一度指でスマホを叩く。
「小さな勇気を大きく変える方法」
彼は今、屋上にいた。冬晴れの輝くような陽光に照らされたビル風が突風と化している。
スマホになければ親に聞くしかない。今までもそうしてきたように、これからも……
眼下に広がるは空谷の跫音。
聞こえたか聞こえまいが、不意の突風が彼の背中を押してしまった。
屋上。
取り残されたスマホ画面は言葉遊びで更新されていく。
ネットが言うには「革命」らしい。SNSはさらなる喜びを見せた。遺族がいないからであろう、事件現場の写真も無遠慮に飛び交っている。
1/27/2025, 11:56:33 PM