七変化

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「好奇心は猫をも殺す」
これは昔から私がよく言われたこと。好奇心が旺盛で、危ないと言われることにも躊躇無く首を突っ込んでいたために、周りは「いつか痛い目を見るよ」という意味で忠告していたのだろう。しかし、その言葉は好奇心の赴くままに行動する私に対する制止力とはならなかった。それどころか、「無知は罪」ということを知って以来、忠告に対してその言葉を返しては制止を振り切って好奇心のままに、多少過激なことだってやるようになった。

そんな私だが、最近は興味を惹かれるものが無く、退屈な日々を送っていた。テレビやラジオ、新聞、雑誌、SNS、果てはネット掲示板まで漁ったが、大半が興味の無いものか、以前興味を持ったものばかり。情報は日々更新されるものだからと毎日確認するも、心惹かれるものは今のところ見つかっていない。そんな私の様子に、幼馴染は呆れたように言う。
「まったく相変わらずなんだから…そんなに退屈なら少しは自分のことでも気にしたら?部屋の掃除に洗濯、食事、何一つ自分ではやらないで私がやってるんだもの。興味を持ったものは誰に言われずとも好き勝手やるのに…」
「仕方ないじゃん。そーゆーことにはまっったく興味が持てないんだからさ。あーあ、この際、すぐに満たされるものでもいいから、私の好奇心をくすぐるような何かないかなー」
そう言って私は本日の情報収集のため、スマホをいじり始める。
正直なことを言えば、幼馴染の彼女には本当に感謝している。好奇心のままに行動している間、私は寝食を忘れてそれだけを考えているので、倒れたことが何度もある。その度に彼女の手を煩わせ、ある時から頃合いを見計らって私に食事や睡眠を無理にでも取らせる、というスタンスになっていた。お小言や説教という、私にとっては厄介なオマケ付きで。
そんなことを考えながら適当に眺めていたSNSで、ようやく心惹かれる噂を見つけた。それもこの近くでのもの。もう少し情報はないかと調べてみる。同じようなものが複数のアカウントから投稿されていた。中には、同じアカウントから何度も何度もその噂に関するものであろう投稿がされているのも見つかった。思わず頬が緩み、口角が上がる。うん、これに決めた。
私は噂の調査でいつも使っているバッグをつかみ、必要なものが全部入っていることを確認すると手早く身支度を整える。突然動き始めた私に幼馴染は驚きはしたが、いつもの事なので彼女ももう慣れたもので、「行先は?言っても無駄だとは思うけど危ないことはしないように。」などなど、必要最低限の質問といつも通りの忠告をため息混じりに口にする。それに玄関へと向かいながら答える。
「取り敢えず図書館!その後はわかったこと次第で動くからわかんない!多分ないと思うけど覚えてたら連絡はなるべく入れるようにするから!」
「連絡は必ず入れなさい!!ったく、好奇心は猫をも殺すんだよ?ま、気をつけて行ってらっしゃい。」
「はいはい!じゃ、行ってきまーす!」
そう言って家を飛び出した。

図書館での情報収集は順調に進んだ。むしろ、調べれば調べるほど噂に関係しそうな事実が次々判明した。それだから私の好奇心はどんどん溢れてくる。
知りたい、もっと。
もっと、もっと!
もっと知りたい!!
この噂の内容は、正直に言えば気分のいいものでは無い。だが、点でしかなかった情報が繋がって一本の線になっていく達成感や喜びがそれを上回り、手が止まらない。私には止められない。

これ以上は出てこないだろうという頃には閉館時間が迫っていた。丁度いい。これから現地に行ってみよう。そう思い立った私は図書館を出て、噂となっている場所に向かって歩き始める。その場所は私もよく知る場所だった。それにもかかわらず、私はその噂を今日まで知らなかった。その理由も気になってはいるが、今は噂それ自体が優先だ。

噂の場所は図書館からそう遠くはなく、歩いて10分ほどで着いた。そういえば、昼間にここに来ることや、見ることはあったけど、夜はなかったな、なんて思いながら目を向ける。
コンクリート造りだが、あちこち亀裂が入っていて、いつ崩れてもおかしくない廃墟。昼間はそうでも無いが、夜に見るととても不気味に映る。
恐怖はあるが、それ以上に好奇心が勝っている。私は意を決してその廃墟に足を踏み入れた。

3/13/2023, 10:00:27 AM