22時17分

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世の中、本当に生きづらい世の中でございます。
えー、数多くある小噺のなかで、『一件のLINE』というものがございます。
これは現代落語といわれる、ごく最近作られた噺でございます。
まあ、LINEというのは、皆様もご存じの通り、ぽつ、ぽつ、と小雨のような短文をこう、相手に送りまして、相手のほうも、
「おっ、来たかあ」
と気づき、送り返してくるという、連絡ツールといいますか、まあそういうものになります。

いやもう、生きづらい世の中の中で唯一と言っていいほど進化したものでございます。
昭和のころは文通とか、もっと昔では電報という、電報……、最近の若者はわかりますかね、
「チチキトクスクカエレ」「サクラサク」など代表的なものがありますが。もはや古典落語でしょう。

「チチキトクスクカエレ」というのは、これはわかりやすいですね。
父が危篤であぶないから、今すぐにでも実家に帰ってきなさい、という緊急性を伝える慶弔電報。
では「サクラサク」というのは?
開花宣言……電報で?
と思うかもしれませんが違いますよ。桜が咲くのは春先、つまり学生の合格発表を意味するんですね。

そんな感じで当時では最も速達性に優れた情報伝達ツールですが、もうちょっと笑えてきますね。ダイイングメッセージみたいな感じじゃないですか。
しかも、「スグカエレ」じゃなくて「スク」ですよ。
濁点が使えなかったんですからね。
文字数に応じて金額が決まってきますから、必要最低限の文字数で内容を伝えようと短くする。そうなると濁点なんて使えるものか! と我慢すると。ケチなものです一文字なんてそんな! ――と。
まあでも、了解のことを「り」とかで送ることがあったとかないとか……。
それを考えると昔の人をバカにできなくなりましたね。本当に生きづらい世の中になりました。

それで昨今の、なんといいますか、Z世代とでもいえばいいんですかね。
そのようなキッズが、ある日押入れの奥から電報の紙を見つけまして。
これが忘れ去られたように保管してあったわけですよ。

「けほっ、けほっ。な、何だこれえ、古びた紙だなあ、ばっちいぞお」
と物珍し気に目を凝らしてみますと、なにやらダイイングメッセージみたいなものが書かれている。

これを見て、好奇心が刺激されたんでしょう。
三度の飯より好きなスマホを使って、解読することにしたのです。
まずはGoogleレンズ。
ご存じですか、すごいですよねぇ。
自動読み取り機能があるので、かざせば自動で読み取ってくれる。
最近のキッズは自分で文字を打たないんです。
全部機械。全部スマホ。
でも、古びた紙ですし、よくある黒いシミだらけですから機械の目では無理な話です。
「あれー、おかしいぞー。いつもならこれで、宿題を、終わらせられるのに」
とか言って、悪戦苦闘するんですが、読み取ってくれないポンコツなので、写真に撮ってLINEで友達に送ることにしたのです。

※アプリが重くなったので残念ながら終了。
『一件のLINE』という現代落語はありません。

7/11/2024, 2:35:55 PM