プツンと何かが切れる音がした。
気が付くと制服姿のまま家を飛び出していた。
空がオレンジ色に染まって日がもうすぐ落ちようとしている。行くあてもないままただただ走っていく。てかあっても畑くらいだし。もう畑の中にでも住もうかな。
出来もしないことをふわふわと考えていると急に地面が近づいてきそのままぶつかってしまった。どうやら私は転んでしまったらしい。
ひんやりと冷えている土が心地よく感じた。荒い呼吸音と風に揺られる草達の音、しばらくするとどこかから誰かが歩いてくるような音が聞こえてきた。
さすがに倒れた女の子がいたらびっくりされてしまう。重たい体を起こし顔を上げるとバチンと音の主らしき人と目が合ってしまった。
年の近そうな男の子がなんとも言えない顔で私を見つめている。絶対こいつ失礼なこと思ってるだろ。
「…どっか良いとこ連れてって」
なんとなく、その男の子に向かって言った。眉間に皺を寄せてすごく嫌そうな顔をし、そのまま私に背を向け歩き出す。
まあさすがに突然そんなこと言われたら誰でも困るよな、と思いながら私ももうすっかり暗くなった道を戻ろうと男の子に背を向けると後ろから「良いとこ、今から行くけどお前もくる?」という声が聞こえた。
振り返ると彼もまたこちらを見ていた。
沈黙の中、ふたり並んで歩いていく。しばらくすると彼が口を開いた。
「いつも思ってたけどこんな時期でもカーディガン着るとか暑くないのか?」
「いつも?どっかで会ったことあったっけ?」
「失礼だな、クラス同じだぞ」
あーそういえばなんか顔見たことあるなとは思ったけど
「ごめん、まだ全員の顔は覚えてないんだ」
「まそれもそうだな」
話しかけた時はすごい嫌そうな顔をしていた気がしたけどどうやらそうでもないらしい。数分ほど歩いていると何か光っているようなものが見えはじめた。
「わあ…」
思わず声が出た。光っているものの正体は数え切れないほどのホタルだった。絵本とかテレビとかで何回か見たことはあるけど実際に見たのは初めてだった。
「すっごく綺麗!!こんなとこがあったんだね!!」
笑顔で彼に向かって言うと少し笑い、ホタルの方へと目を向けた。
「…なんかあったんだろ。話聞くぞ、僕でもよかったら」
「その感じで僕呼びなんだ」
「うるせぇよ」
暗がりの中で1匹、彼のホタルが私の心の中で小さく光った。
〖暗がりの中で〗
10/28/2024, 4:22:50 PM