霜月 朔(創作)

Open App

好きだよ




夜が深くなるたびに、
思い出の輪郭が滲んでいく。
君の声も、仕草も、
夢の続きのように、
浮かんでは、消えていく。

微笑んで、頷いて。
まるで恋人のような、
他の誰かとの、穏やかな日々。
けれど、それは、
君の影を濁すための、
仮初めの風景に過ぎないんだ。

「幸せそうだね」と、
他人は言うけれど。
例え、お互いに、
心に別の影を抱えていても、
春風のような優しさが、
孤独を隠してくれるなら、
それで、良かったんだ。

君にも、もう、
新しい誰かがいるのかな。
あの、はにかんだ微笑みが、
私じゃない、
他の誰かに向いている。
そんな光景を想像して、
勝手に苦しんで。

そんな自分が、
惨めで。哀れで。
…滑稽で。

ふとした沈黙の中で、
君の名が、喉の奥で疼く。
呼べないと知っていても。
届かないと知っていても。
それでも…。

好きだよ。
今でも――ずっと。

言葉にすれば、
幻が壊れてしまいそうだから。
せめて、夜風に紛れて、
そっと言わせて。

好きだよ。

君がもう、戻らないことは、
分かってる。
それでも、まだ、
心の奥で、君を待ってるなんて、
滑稽だよね?

だけど、好きだよ。

時間がどれだけ流れても、
他の誰かをこの腕に抱いても、
この胸にあるのは、
君の温もりばかり。

もう二度と、
君の時間を生きられなくても。
この想いだけは、本物だと、
信じて欲しいんだ…


4/5/2025, 5:50:12 PM