寸栗睦栗

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「逆さま」

人々の話し声が、薫風と共に流れ、僅かに鼓膜を揺らす。しかし、それよりも鮮明に聞こえるのは、筆記音。低い焦茶の机を挟んで、足を折りたたみ、向き合う先、相手の目線は伏せられており、忙しなく、手が走っていて、そこに会話は無く、久方ぶりの逢瀬とは思えないけれども、不満なんてありませんでした。
貴方は無口で、何を考えているのか、とても、私には分からないけれど、その分貴方は、言葉が美しい。同じものを見ても、貴方の感じたこと、それを伝えるために紡がれた言葉、それらに心を奪われているのです。
貴方の言葉は宝石で、それを無闇矢鱈、手に入れようだなんて、傲慢がすぎてきっと罰が下るでしょう。だから、貴方の言葉がこの世に生まれる瞬間を、今この時、知るのは私だけという身に余る光栄だけで、十分なのです。
貴方の紡ぐ、逆さまの文字を追う。
今日は、どんな宝石になるのでしょうか。

12/6/2023, 1:06:51 PM