私はこの家が嫌いだ。
じいやも、兄さんたちも、姉さんも、みんな「家の掟だから」だなんだと言って古い考えで動く。
全員、私が小さい時はそんなじゃなかった。
兄さんたちは姉さんがボロボロになってから、私への当たりが強くなった。
私は何も変わっていないのに。
家の者たちは私に変わらず優しくしてくれるし、私もそのお返しに兄さんたちが仕事やなんやで家を空けている時はこっそりみんなを手伝う。
まあ、そもそも兄さんたちがおかしくなってしまった気持ちも分かる。
私だって上の兄さんたちがみんな死んでしまったのは悲しかった。でもそれでいつまでも立ち直れないのは違うのではと思う。
もちろん背負うものの違いはある。
私は本来我が家の女の娘が持って生まれてくるべきものを持ってこずに生まれてきた。
我が家の呪いの全ては姉さんが背負っているし、そんな姉さんを守らなければいけないという焦燥感に兄さんたちが苛まれている気持ちも分かる。
でも今この世において姉さんを殺せる人間はそう多くない。
だって姉さんは強いから。
私は何においても姉さんに手合わせで勝てない。
直接戦うでもない弓道の全国大会の成績やテストの点数すら姉さんに敵わなかった。
私はいつでも二番目で、姉さんが嫌いだった。
でも、姉さんは私のことが大好きだ。
姉さんは高校生の頃、姉さんに張り合おうとムキになっていた私に対してしきりに「麻里亜はこの家の事を何も背負わなくていい。あなたが欲しい幸せを、全力で追いかけて欲しい」と言っていた。
けれど別に私は好きな人もいないし、友達もいないし、後輩からは慕われていたけれど、別にこちらからどうこうしようとも思わない。
つまり姉さん以外に執着できるほどの人間がいなかった。
だから私は姉さんを超えるために必死に色んなことに取り組んだ。
でも高校三年生まで姉さんを超えることは出来なかった。
高校の卒業式の帰り道、姉さんは私に「麻里亜につまらない高校生活を送らせてしまったかもしれないことだけが心残りだ」と言った。
私は耳を疑った。
調整者の仕事で忙しく、学校を休むことも多かったため行事に参加できず、友達も作れず、恐らく味気のない学生生活を送ったであろう姉さんが、「それだけ」が心残りだと言ったのだ。
自ら行事に参加せず、友達も作ろうとしなかっただけの私を、ずっと思ってくれていたのだ。
意味がわからなかった。
生まれた時間が数刻違うだけの、同じ歳の、双子の姉が、ずっと私を…………
「私は!姉さんと三年間ずっと勝負ができたことが楽しかった、それだけでいいんだよ。
姉さんは高校生活、楽しかったの?」
私が思わず大きな声でそう言うと、姉さんはキョトンとした顔をしてから、満面の笑みを浮かべた。
「私も、麻里亜とずっと一緒に過ごせて楽しかった。でも、この三年間だけじゃなくて、今までずっと。麻里亜がいてくれてよかった、幸せだって思ってるわ」
姉さんの花が咲いたような美しい笑顔に、胸が大きく高鳴った。この時に、私は姉さんのことが大好きだってことに気付いた。
だからこそ、姉さんに苦しい顔をさせているこの家が、掟が、よりいっそう嫌いになった。
7/23/2024, 2:38:22 PM