幻想的な青い花畑がある。
誰一人踏み込んだことがない、不可侵の領域だ。
青い花はそこでひっそりと生きていた。
荒らされることのない環境は、青い花にとって大切な場所であった。
ある時。
一人の旅人が、青い花の下へやって来た。
青い花は警戒した。
不可侵の領域に入り込んでくる人間がいるとは思わなかったからだ。
それに、旅人がやって来た理由も分からない。
警戒する花に対し、旅人は話しかけてきた。
人と話をしたことがなかった青い花は、素直に嬉しいと思ってしまった。
旅人は穏やかで優しい性格をしている。
怖い人ではない。
青い花は警戒を解くと、旅人との会話を楽しむようになっていった。
旅人の言葉は優しく、話す内容も青い花にとって新鮮で興味深いものばかり。
青い花はお礼に、旅人へマナを渡した。
旅人の思い出の品にでもなればと思い渡したのだが、旅人は帰らなかった。
旅人には行くべき、待つべき人がいるのを青い花は知っていた。
いつまでもこの花畑に留まらせてはいけない。
そう思った青い花は、旅人を元の道に戻すため旅人が嫌がる香りを放つことにした。
嫌な思いをすれば、旅人は立ち去り、ここにはもう来なくなる。
青い花はそのことを寂しいと思う己を叱咤しながら、嫌な香りを放ち続けた。
おかえりなさい。
大切な人の元へ。
おかえりなさい。
あなたの行くべき道へ。
そう青い花は願っていたのだが──。
嫌な香りに顔を歪めながらも旅人は尚も、真摯な言葉と優しい心で青い花に接してきた。
その姿を見て、青い花は優しい人をただ悪戯に傷つけた──己の愚かさと浅はかさを思い知ったのだった。
旅人が満足して立ち去るまで、真摯に受け入れよう。
青い花は嫌な香りを出すことを止め、旅人と向き合うことにした。
傷つけてしまった分、あげられるものはあげよう。
もし、いらないと言われたら──今度はひっそりと姿を消そう。
──ズルい青い花は、ずっと知っていた。
青い花畑を消す方法を。
旅人のことを思うならば、本当はそれが一番早いことも──。
旅人は知らないだろう。
旅人との会話でどれほど青い花が癒され、深い情を抱いたかを。
旅人がただ居てくれるだけで嬉しいと思う青い花の心を。
旅人が愛してくれた青い花畑を消すことができないことも──。
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花畑
9/17/2024, 2:57:30 PM