「やぁ、来たよ」
誰も知らない小高い丘にいる友に会いに来た。
彼は返事もせずにじっと佇んでいる。それは、生前に腕組みをしていた堅物な姿を彷彿させて、私はつい笑ってしまった。
この墓石は私が勝手に建てたものだ。組織に知られても問題ないのだが、彼の妻に知られたら厄介なので秘密にしている。
彼の妻は、彼の死を受け入れていない。亡骸が未だに見つからない状態だから無理もないが。
「最近忙しくてね、なかなか来られなかった。すまない」
彼の好きだった酒をかけてやる。そんなに要らん、と言われそうだ。
手を合わせて彼を悼む。
皆の前では努めて冷静に振る舞ったが、私だって辛かった。彼は初めて友人と呼べる存在だった。こんなバケモノの私を友と呼んでくれたのだ。
生前、私は彼に「君が死んだら、亡骸を食べていいかい?」と聞いたことがある。ものの見事に断られたけど。死んでしまったら抵抗もできないから食べてやろうと思ったが、亡骸が見つからないのでは仕方ない。諦めるしかあるまい。
「もしかして、私に食べられたくなくて姿をくらませているのかな?」
笑っても返事はない。
「冗談だよ、怒らないでくれ」
拓けた丘で大空を仰ぐ。晴れ渡り、雲ひとつない青は清々しく……まるで彼のようだった。
太陽が眩しくて空に手をかざした。
「またここに来るよ、寂しくなったらね」
雨が頬を伝ったと思ったが、気のせいだったようだ。今日はこんなにも良い天気だ。
【大空】
12/21/2023, 12:02:47 PM