仮色

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【夢と現実】

ばん、という音と共に弾ける火の花を目に焼き付ける。
パラパラと光の残滓が下に放物線を描いて、地面に届く前に消えた。

――すごいね、母さん!

収まらない興奮をそのままに母に話しかける。
花火の後に目に写った母は、子供でも見惚れるような優しさに溢れた表情をしていた。

――そうね、また来年も見に来ましょう。ね、あなた?
――ああ、そうだな。来年も来よう。

私を挟んで微笑み合う両親は、まだ幼かった私には嫉妬心を沸かせるものだった。
ぷく、と頬を膨らませて、精一杯の不機嫌アピールをする。

母さんは父さんが大好き。父さんは母さんが大好き。
だから、そのふたりの娘の私は大大大好きでしょ?

そんな事を言って、私は2人の手を片方ずつ握った。
2人も笑いながら肯定してくれて、心がぽかぽかと暖かくなる。


ああ、ずっとこの時間が続いたらいいのに。

ずっと、ずーっと。


…分かってるんだ。これは、夢でしかないこと。
まだ私が明るく輝く星で在れた頃の、しあわせな夢。
沢山の、数え切れない星達に混ざれていた頃。


……出来ることなら、暖かい星のまま居たかった。







ぱちりと目が冷めて、無機質な白の天井にしばらく目を向けていた。
まだ暗い。また、2時間ほどしか眠れなかったらしい。
腕に繋がっている管が抜けないように注意しながら、のそりと鈍い体を横の真っ白い壁にある窓に向ける。

温度の差で若干結露しているガラスの向こうには、数え切れないほどの星が輝いていた。

「なんで…星になれなかったんだろうなぁ」

ふたつの意味を込めて、そう呟く。
いつの間にか、目元から生暖かい水が零れ落ちていた。


…その目元に光る雫が、星に負けないほど輝いていること。
それが、本人が1番気付くことのできない事実というのは、


少し、皮肉が効きすぎている。

12/4/2023, 5:08:57 PM