梵 ぼくた

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今宵も,夜の帷が降りた。

しん.と静まり返った山奥へ足を運び,大きな湖のほとりに座り込む。
何でも映し出せる鏡のような水面に,貴方と2人顔をのぞかせてみた。

真っ暗な夜空にぽっかりと浮かぶ月,ぴりりと刺激する肌寒い北風,今にも消えてしまいそうな貴方の笑顔。

何処か哀しそうな横顔の輪郭に,瞳も心も奪われた…だなんて呟いてみれば,貴方はどんな反応を見せてくれるのだろう。

貴方の事だ,「 なんだよそれ,恥ずかしいじゃん… 」と顔を赤くしてそっぽを向いてしまうだろう。

そんな貴方の事が,狂わしい程に愛おしくて。
彼女に視線を逸らせば,その華奢な指先で水面に波を作りながら目を輝かせているでは無いか。
幼子のようだな,と心の奥で呟いてみれば,可笑しくてつい笑ってしまった。


山奥の木々をすり抜け此方へやってくる風に乗せて,永遠を誓うことだって出来た。

だけど神は,貴方と永遠を過ごす事に許しを与えてくれなかった。

寿命が,それを物語っている。

悠久の時を生きる自分と,たった100年程度の僅かな時間しか生きれない貴方。

なんて残酷なんだ,と小さく呟けば,ごろんと横になってみる。
優しい北風に煽られ,前髪がふわりと揺れる。


オレも,あの夜空に浮かぶ大きな満月のように,ヒトリになってしまうのだろうか。


そんな事を思っていたら,彼女が乱暴に自分のとなりへ寝転がった。
茶色い髪が碧い芝生によく映えている。

「 アタシは,アンタを二度とヒトリにさせはしないさ。 」

そう言って,八月の向日葵で作り上げた花束のような眩しい笑顔を見せた。

やっぱり,貴方には敵わないな。だなんて想いながらぎゅっと抱きしめてやった。
彼女の太陽に干した布団のような,包まれるような優しい匂いを感じながら。



貴方が逝ってしまうその時には,オレもついて行くから。
だから,待ってて。

2/14/2024, 11:32:14 AM