『帽子かぶって』
帽子をかぶる理由。
全然帽子のイメージもない友人が突然帽子をかぶって現われた。
帽子の理由は何だろう。
例えば、どうにも直らない頑固な寝癖を隠すため。それともそもそも寝坊で髪に割ける時間なんてなかったとか。
散髪に失敗した翌日の、その場しのぎ。
いや、ネガティブな理由とは限らない。
夏場の陽射しを遮るため。……これはネガティブじゃないと言えるか、疑問だけど。
そうね、ほかには……店先で、帽子に一目惚れをかましちゃった、なんてこともあるかもしれない。
つばの大きな、真っ白の帽子。
りぼんと鮮花で飾られている。花は香りも高い。派手派手しく主張は強いが、厭味にはなっていない。匙加減はまぁ見事である。
その褐色の肌と金色の瞳に、白は違和感なく似合う。
ツッコミ待ちなのか堂々と、そして心做しかドヤ顔でターメは約束どおりの時間に現われていた。
シルルがここまで内心に疾らせた分析は一瞬だった。そしてゆっくり口をひらく。
「どしたの、帽子なんて、ターメ。とうとう角でも生えちゃった?」
ターメは微笑んだ。
そしてぱしっとシルルの頭に手を下ろす。軽い手刀、痛みはない。
「不合格」
「これ試験か何かなの?」
「どうかなー」
歩き出すターメにシルルはつづく。
「で、何でその帽子なの」
訊いてみたら、ターメは足を止めた。
「そうだねえ」
小首を傾げて、ターメ。
「猫耳生えた、とかかな!」
「不合格」
今度はシルルが切り捨てた。
眼があった。ふたりは同時に、笑いだした。
1/28/2025, 10:31:43 AM