夏が始まった。
僕は叫んだ。また君が来るんじゃないかと信じていたから。
「僕はここにいるよっ!ここだよ!!」
何度も吐いた言葉。そんな必死な叫びも街の話し声によってすぐにかき消された。夏になると騒がしくなる。周りも。僕も。それでも僕は何度も何度も繰り返す。
「君はどこにいるの?僕はここにいる!」
君と会った日を鮮明に思い出す。今日と同じような日差しが強い日、君が僕を見つけた。
表情を変えずに見つめていた君の姿は、とても綺麗で美しかったのをよく覚えている。
さらさらとした灰色の毛も見下すような橙色の瞳も全て僕の心をつかんだのだ。
声を交わしたのはたったの1回だった。たった一言だけでも聴けた君の声。君は僕を覚えていないかもしれないが僕は君を覚えてる。
せめて君の声だけでも聴けないかと僕は呼び続けた。
鳴き叫んで鳴きじゃくって鳴き続ける。
すると視界は傾き真っ逆さまに僕は落ちた。
「あ…」
情けない声と共に地面にぶつかる。片方の翅がちぎれる。空が見えた時、君の声が聴こえた。
「んぐる、にゃあ」
僕は嬉しくて君を目で探す。でも君はどこにもいなくて、視界を占領したのは青い瞳の猫だった。
僕は食べられてしまった。
6/29/2024, 10:13:57 AM