イオリ

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友達

放課後。音楽室の机でぐったり眠っていた。期末試験の一夜づけのせい。防音対策がしてあって、野球部の雄叫びに邪魔されずに1時間ほど眠れた。

目を覚ました。軽くストレッチしたあと、ケースからギターを取り出す。たった一晩触れなかっただけなのに、やけに愛おしく感じた。

あてもなく音を鳴らす。眠っていた指もしだいに目を覚ましていく。さて、今日は、何を弾いてみようか。

E♭マイナーで始め、Dドリアンで転調。

「so what」。オリジナルとは違う雰囲気だけど、まあいっか。何気なく続けた。

響く金属音がした。指を止めずに振り返ると、スティックがライドシンバルを鳴らしていた。静かな安定したリズム。

視線に気づいたはずだが、彼は僕に目もくれずにスティックを弾かせた。スネアがビートアクセントを築く。

試し試しに始めたコードが、次第に確かな輪郭を見せ始めた。ブルージーとメランコリック。こちらが好き勝手に転調しても、彼のドラムは離れずについてくる。いや、時にはこちらを追い越そうとさえしてくる。

負けじと僕も、穏やかなメロディの中に、指先から意地を詰め込んでいった。

静かなエンディング。決して上質な、お手本のような出来栄えではなかったと思う。どちらかというと、聞くに堪えない荒い演奏だったかもしれない。

でも止まらなかった。僕も。彼も。

何を言おうか考えていると、彼は財布とスマホを手に無言で音楽室を出ていった。

おいおい、なんか言えよ。元々口数の少ないやつだけど……。

まあ、いっか。

さっきの感覚を思い出しながら、また指先を躍らせた。

10/26/2024, 12:27:04 AM