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私が部屋に入ると、彼がむくっと顔を上げる。
私は彼の前まで歩を進め、彼の前で腰を屈める。
彼は不安な眼差しで、私の顔をじっと見つめる。
私が彼の顔の前に手をかざすと、彼は私の手に鼻を押し当て、安心した様子で顔を下ろす。
彼と出会ったのは、私が七歳の時だ。
私の通っていた小学校へは、家を出て左に進み、一つ目の公園のある角を右に曲がる。そこからしばらく真っ直ぐ進むと左手に見える。
当時両親にはよく注意をされたのだが、私はいつもその角の公園を横切って、近道をする。
短縮できるのはせいぜい二三秒なのだか、幼い私にとっては遠回りする意義が見いだせなかった。
そんなある日の夕方、学校からの帰り道、私がいつものように公園を横切ると、小さな声を耳にした。
私が足を止め、声の方に目をやると、目線の先には茂みが生い茂っていた。
私は声を頼りに茂みに入り、声の主を探した。
茂みをかき分け前に進むと、目の前には私の身幅の倍はある成木が。
下げた目線の先には小さな彼が声を上げていた。
そのやせ細った小さい体から何度も何度も振り絞り、必死に生を渇望している。
私は、背負い袋を地面におろし、彼を優しく抱きかかえる。私はそのまま家に走った。
家に着いて彼を下ろすと、私の服は泥でぐちゃぐちゃに。
親には、ランドセルを公園に置いてきたことを叱られて、泣きながら取りに戻った。
私は彼の頭をそっと撫でながら、彼との記憶に思いを馳せる。
彼が眠るのを確認し、私は腰を上げてその場を後にする。
私が部屋の扉に手をかけると、私の背から力のない声がかすかながらに聞こえた。
振り返ると、彼が足を震わせ、殆ど見えないであろう瞳で私を捉える。そしてまた、小さく声を上げる。
彼の声には初めてあった時の生を渇望するような必死さはなく、他の何かを求めるように弱々しい。
私は踵を返し、再び彼の前で腰を屈める。
「大丈夫。最後までここにいるよ」
私の言葉を聞いて安心したのか、彼は再び横になる。
彼の頭をそっと撫でると、彼の瞼が瞳を覆う。
「おやすみなさい」
彼は深い、深い眠りに落ちていく。

11/23/2023, 1:43:05 PM