夏子

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私は今、病院のベットの上に居る
そして両手、両足はベットにしっかりと
固定されている…

「離せ〜!帰る〜!」
ガバっと起き上がろうとする私を
静止させる為にベットに固定され
暴れる度に、ギシギシベットが鳴った

「今何時だろう…ここはどこ?」

とにかく、私には急いで行く場所があった
見習い美容師の私は食事当番で、それが
終わって自転車に飛び乗り……

「そうだ!先輩に髪を切ってもらうんだ」

そう…だから、約束の時間に間に合うように、一生懸命に走っていたんだ…

でっ……なんで病院なわけ??

頭が痛い…パニックで思考回路が切れている……私は、さっき車に跳ね飛ばされた

………らしい。

「今夜が山です…もしもの時は覚悟して
下さい」これは、医者のセリフだ…

テレビではない…両親への発言である。

意識がふっと戻り、またふっと切れる
その狭間に聞こえる会話は緊迫している

「私……死ぬのかな?」他人事のように
もう1人の自分がいるような感覚…

また、ふっと意識が戻る…同期たちが
私を取り囲み今にも泣き出しそうだ…
けれど、やっぱり他人事みたいにあっけらかんとした私は存在している

1人2人…取り囲んでいた人々たちは引き上げ、最後に残ったのは私がただ一方的に
好きだった人だ…

「可哀想に…手首が擦れて血が滲んでる」
ゆっくりと外し、彼はしっかりと両手で私の手を握りしめた…

思い出した…彼に気に入ってもらう為に
髪を切りに帰っていたんだ…私。

その途中での大事故……

頭蓋骨骨折で私は今、死の淵を彷徨っている……居るはずもない彼が来てる?

頭打っておかしくなっちゃったかな私?
もしかしたら、人生ラストの神様からの
ご褒美なのか?

しかし…そうではなかった

彼との人生の「物語の始まり」は
今…この瞬間に幕を開けた…
目の前に大好きな人が居る…現実だった

しかし、意識朦朧な私は状況を掴めない
「もう、ダメだな…幻まで見えてきた」
心の中で自問自答しながらまた意識が
遠のいていく…
 
しかし、私は奇跡的に助かった…

そこから、彼は変貌を遂げた…
次の日も、また次の日も彼は足繁く
私の元に通いつめた、別に付き合っても
いないのに……あれから数十年

私は、時々聞いてみる…

「なんで来たの?」
「いや、自分にもわからん…?」

「ねっ…なんで?」
「だから、わからないんだって!」

神様って、イタズラ好きなんだろうか?
………これは全て実話である。

4/18/2025, 2:20:15 PM