うちの祖母はお三時が好きらしい。
菓子を食べながら他愛もない話をするのが目的のようだ。
ついでに茶が出る。
麦茶程度ならまだしも、私の家庭では茶を飲まない。
頑固なコーヒー派だ。しかし私は紅茶の方が好きなので
えらく肩身の狭い生活を送ってきた。
なので、遠路はるばるやって来た実家で暇を持て余す
私にとって、一番好きな時間だったように思う。
淹れたての紅茶を湛えたカップを、心の中で拝み倒して、
祖母の何でもない雑談を聞く。
固有名詞が多すぎて大体意味は分からない。が、
相手も話すことが満足であって、聞いているかどうかは
案外どうでもいいようだ。相槌混じりに菓子も頂く。
暮れなずむ夕日を傍目に、のんびりする一時。
今でも祖母はお三時が好きだ。
ボケきって時間もわからないのに、お茶は淹れたがる。
茶請けの賞味期限はとうに切れて、痩せ細った祖母が
何度も同じ話を繰り返す。
この食卓には、死の香りが満ちている。
お題「紅茶の香り」
10/27/2023, 11:03:31 AM