小絲さなこ

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「図書室の顔見知り」


体育祭や文化祭は、クラスメイトとの仲を深めるきっかけとなるイベントだと言われている。
だが、仲良くなったように思えたのは一時的なものだった。
冬を迎えた今、ひとりで昼休みを過ごしている私は、友達がいない。


昼休みの残り時間はあと三十分。渡り廊下に出る。
ここは暖房が効いていないため、マフラーを肩掛けのようにして早足で目的地を目指す。

暖かい空気が漏れないよう、最小限に扉を開く。
するり。図書室に滑るように入ると、図書室でよく見かける男子生徒と目が合った。
ぺこり。お互いに会釈を交わす。

上履きのラインの色から同学年だということは判っているが、何組なのかも、名前も知らない。たぶん向こうも私の個人情報は知らないだろう。
同じ本を取ろうとして手が触れたりしたことは何度かあるが、それ以外ではろくに会話もしたことがない。図書室で見かけるだけの、まさに顔見知り。それだけの関係だ。


そのはずだったのに──


「ねぇ貴女、そこの彼と一緒に、リブリオバトルに出てみない?」

司書教諭のこの一言が、私と彼の関係を大きく変えてしまうなんて、この時の私たちは思いもしなかった。



────仲間

12/11/2024, 7:37:23 AM