思いつきなんちゃって小話

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【一筋の光】

私は今埋められている。
土の中。酸素は薄い。
さっき来た大災害に巻き込まれてしまったのだ。

駿河湾から日向灘沖を震源地とする、南海トラフ地震。

震度6強の揺れに見舞われ、昨晩の雨で緩くなっていた土砂が私に降り注いだ。
うちは山間部だから津波は来ないと正直油断していた。


━━30年以内に起きる可能性は70パーセントです━━


真っ暗闇の中、ニュースの言葉がずっと脳を駆け巡る。

あんなに備蓄をしっかりしていたのにな…。
それにしてもここは重くて、暗い。
昨晩の雨に濡れた土は泥となり、私の身体に密着している。動こうとすればするほどに、私の身体に張り付いてくる。
動き疲れた私は、来るかも分からない助けを大人しく待つことにした。

何秒、何分、何時間が経ったのかすら分からぬ暗闇。
目が慣れることの無い闇は、私を益々不安にさせる。
いっそ地獄のような光景でもいいから、この目に入れたいとさえ思った。

何も感じなかった体が、冷たい何かを感じた。
ミミズだ。ミミズが顔の近くを張っている。
今すぐにでも払い除けたい衝動で、右手を動かすがビクともしない。どうしようもなく、ただその気持ち悪さを堪え、されるがままにミミズを散歩させた。

もう嫌だ。早く出たい。
目を閉じて、次起きた時には光の中に居たい。

そんな願いも虚しく、暗闇が続く。
遠くからカラスの鳴き声が聞こえる。明け方なのだろうか?とっくのとうに、時間間隔など分からなくなったはずなのに、体に備わった時計は夜に睡眠を取ることを覚えていたようだった。

お腹がすいた。

カラスの声に混じって、犬の吠える声がした。
まだ遠いが、頑張れば声が届くのではないだろうか。

助けて、ここにいます。助けて!!!

大声をだすが、近づいてくる気配は無い。
どうしたらいい、今を逃したら助けはいつ来るんだ、
死にたくない、こんな暗闇もう嫌だ。

━━土に埋まってしまった時には、排尿しましょう。
災害救助犬の鼻が匂いを捉えやすくなります!━━

いつか見た動画の言葉を思い出した。
普通の人間なら抵抗してすぐに行動に移せないだろうが、私は違った。
死ぬこと以外に怖いことなんて、今は何も無かった。

どうか神様、私を助けてくださいと。
心から願い、大声をあげながら排尿するさまはきっと無様なものだろう。そんな私を神は救うのだろうか。



しばらくして
私を救う神のような声が聞こえた。

11/6/2023, 9:07:05 AM