『子供への虐待の容疑で自称専業主婦の女が逮捕されました。女は父子家庭で育ち――』
夕食の時間帯に、父親の連れ子を殴り捕まった女のニュースが流れた。
女の過去までつまびらかにするそれを、私は見るでもなく見ていた。けど食べている里芋の煮物の味はしない。
炊きたての白米を碗にたっぷりとよそってきた母が、ニュースを見ながら喚く。
「また虐待? 最近多いわね」
愛されていなかったのね、と一人でうなずきながら、母も食卓についた。テレビではまだ逮捕された女の話題が続いている。
今さらチャンネル変えるのもなんだし、早く終わらないかな。私はテレビから意識をそらすように、母から受け取った白米を夢中で箸で運んでいた。
「麻里衣は?」
一心不乱で白米にがっついていた箸が止まる。
白米を口いっぱいにおさめたまま、ゆっくりと顔を上向けた。母はにこにこと笑っている。
「麻里衣はそんなことしないわよね?」
なんてことのない母の声が、蝋のように私にどろりと垂れてくる。
私は白米を口いっぱいに頬張ったことを後悔した。緊迫感におされて、唾液も出てこない。
白米は無味を通り越して、もはや砂の味に変わっていた。
11/28/2024, 12:50:04 AM