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 甘い香りがした。
「あれ、なんか今日はいつもと違う匂いだ」
「ふっふーん! よくぞ聞いてくれた!」
 彼女は、今日の私はいつもと違うんだぞ!と自慢げに胸を張る。
 その動作ひとつで、ふわりと香る匂い。いつもの彼女とは違う匂い。
「今日はね、香水を付けてみました」
 どうやら、調香師の元へと赴いてオーダーメイドで作ってもらったらしい。
 何故わざわざ……とか、高かっただろうに……とは思うけど、今日のために準備してくれたことが只純粋にうれしかった。
「だって、特別な日だからさ。今日くらいは許されるかな~って」
「あはは、そうだね」
 なんたって、今日は僕たちの初デートの日だ。
「あーあ、きみも香水付けてみたらいいのに。匂いが違うと雰囲気も変わるんだって、調香師さんも言ってたよ~」
「それ、いま言わなきゃダメ?」
 もっと早くに言ってくれれば僕もちゃんと準備できたよ? と髪をいじくりながら唇を尖らせる。そんな僕を見て、彼女はひどく可笑しそうに笑った。
 ああ、僕はしあわせものだなぁ。
「仕方ないなぁー、次行くときは一緒に行こっか。きみも絶対に楽しめるよ!」
「そう? ……じゃあ期待しとこうかな」
「うんうん!」
 それじゃあ行こうか。
 僕たちは、柔らかくしっかりと手を繋いで、少し歩いた先にある映画館を目指した。


▶香水 #1

8/31/2023, 12:05:03 AM