『今一番欲しいもの』 (アンパンマン)
顔が濡れて力が出ない。
いつもみんなを困らせて悪さをする彼にいつもぼくは注意をしている。言ってもわからない場合はちょっと懲らしめることもしばしば。そのために彼からは目の敵にされてしまっている。
力が出ないぼくの体を彼は日頃の憂さ晴らしも込めて痛めつけることに躍起になっていた。彼と仲良くしようと思っているけれど、みんなを困らせる彼と仲良くなるにはどうすればよいのだろう。彼が痛めつけることに飽きたとき、仲良くしようだなんて思ってくれるだろうか。
遠くから唸りを上げて走る車のエンジン音が思考に沈んでいたぼくの耳に入ってきた。戦車のようにも見える車のハッチが開くと、見知った彼女が叫んで今一番欲しかったあれを投げつけてくれる。あれはぼくの力の源。あれはぼくの新しい思考。
気がつけば彼は空の彼方に飛ばされており、ぼくはそれまでの沈んだ思考を思い出せなくなっていた。彼に困らされていたみんながよかったよかったと安心しているのを後ろから眺めていたぼくは、ほんの少しだけ立ち止まって後ろを振り返っていた。
7/22/2024, 3:40:03 AM