ぼたん丸

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火を灯す。
床も壁も、隙間が無いほどに敷き詰められたキャンドルに。
一つ一つ、小さな生命の火を灯す。

君はそれを、一つずつ消していく。
僕が灯したキャンドルを、乱暴に、握り潰すように。
僕が火を灯す度に君が消していくから、いつまで経ってもキャンドルはいっぱいにならない。

「どうして消すの。」

僕は尋ねた。
せっかく灯した生命の火なのに、どうしてそれを消してしまうのか。
君は、小さな火で酷い火傷になった手のひらを僕に見せた。

「少し触っただけで、こうなる。」
「だったら、消さないで。」
「できない。だって、」

君は、火傷した手で僕の手を指さした。

「お前は、自分の手が燃えてることに気づいてない。」

言われてやっと、気がついた。
キャンドルに生命の火を灯すたびに、僕の手にも火がついていたこと。
増えすぎたキャンドルが、僕自身を焼いていたこと。
今までずっと気がつかなかつた。

「キャンドルが、増えすぎた。お前の手まで燃えるほど。」

キャンドルは、小さな灯りをちろちろと揺らしている。
今まで大切に守ってきた灯りが、急に冷たく、重いものに感じた。

「だから、減らさないと。」

君は笑って、キャンドルを一つ踏み砕いた。


***

そうして、全世界に拡散した一つの感染症によって、多くのキャンドルの灯りが消えた。


[キャンドル]

11/19/2023, 3:42:31 PM