深夜二時を過ぎても尚、煌々と夜空を照らしている街の明かりのせいで、空には星ひとつ見ることができなかった。あの闇の先には、本当に宇宙というものが存在しているのか、果たしてそこには本当に地球以外の星があるのだろうか、と疑いたくなる。
あの夜、皮肉めいた口調で「優しいのね」と言い放った君の心は、まさにいま目の前に広がる夜空と同じように、深く、暗く、冷たい空気で満たされていたに違いない。
片側三車線の幹線道路には、夜中だというのに多くの車が行き交っていた。この時間の彼らにとって、制限速度なんていうものは無縁のようである。車が通り過ぎていくたびに、湿った空気を含んだ風が歩道を歩く俺の右頬をはたいていく。
あの夜、いっそ頬をはたかれでもしていれば、俺は君の悲しみに気付けただろうか。何を考えたところで、誰からも答えが返ってこないことは俺が一番わかっている。
通りの脇に神社の鳥居を見つけ、気づけば吸い込まれるように短い階段を上がっていた。幹線道路の喧騒から幾分か離れた境内は、すっと風がやんだように落ち着いて、それが尚更に俺自身も見つめられなかった心の奥の闇を浮き彫りにした。
あの夜、俺が君の隣できちんと寄り添ってやれていれば、君は車の波に身を投げることもなかったのだろうか。今となっては、神に何を問うたところで、彼女が返ってこないことは痛いほどわかっている。
明かりからも離れ、しんと音の止んだ境内でふと夜空を見上げる。気を抜けば漆黒に変わってしまうほどの、仄かな青みを帯びた空に、先ほどは見えなかった小さな星々が、点々と浮かび上がる。
ああ、そうか。あの夜を境に暗闇へと転じた俺の心が、いつも仄かに青いのは、君が遥か遠くでぼんやりと光っているからなのか。もう会うことの叶わない君に手を伸ばす。指の間をすり抜ける風が、わずかに湿っていて、わずかに温かかった。
#midnight blue
8/22/2025, 5:41:27 PM