ののの糸糸 * Ito Nonono

Open App

No.2『君がいない』
散文 / 恋愛 / 掌編小説


『どうにもならないことが分かっているから、わたしはあなたから離れます』

そんな君が遺した一言が胸を締めつける。嫌いになったからだとか、もう愛してはいないからなどという明確な理由があれば、こんなにも苦しむことはなかったかも知れないのに。

昨日、ぼくが仕事に行っている間に、君はぼくの部屋から出て行った。同棲を始めてから増え続けた、君の荷物と一緒に。
歯ブラシ、マグカップ、お茶碗、シャンプーにリンスに至るまで。二つずつ揃えていたものはひとつずつになり、君が生活をしていた空間だけが、ぽっかりと綺麗さっぱり、最初から何もなかったかのように。君の痕跡だけが消えていた。

君がいない。
あんなにそばにいた君が、今はこんなにも遠い。


お題:距離

12/2/2022, 6:53:30 AM