桜舞う季節、貴方と出逢った。
うら若き時分。一目惚れ、というものだったのだろう。夏をともに過ごし、肌寒さを感じ始めた秋頃には互いの手と手が触れ合う距離にいた。冬には、ぴっとりと肩と肩を合わせて、寒いね、なんて言って笑い合っていた。
そうして季節は一巡して、二人で二度目の春を迎えた。
二人で過ごす時間は誂えたように心にストンとおさまって。気付けば顔はいつだって綻んでいた。それはあなただって。
ぱちり。目を開く。懐かしい夢を見ていた。かつて確かにあった日々。
あの日々を思い出せば、顔は勝手に幸せの形を象るのだ。ふふ。木漏れ日のようにこぼれ出た幸せは音になって口元を滑る。それを見ていた少女が、つられたように笑う。
「どうしたの、おばあちゃん。そんなに嬉しそうに」
「……ええ。嬉しかったの。あの人との出逢いを、……出逢ってからの日々を夢に見たから。なんだか大事にしまっていた宝箱を開けたような気分なの。ふふ」
「えへへ。おばあちゃんが嬉しそうで、あたしも嬉しい。よかったね、おばあちゃん」
笑いかける孫の顔と、かつての自分の顔が重なる。きっと私も、こんな風に笑っていた。キラキラしていた。きっと、今も。
手元を見る。しわくちゃになった手。あの時の瑞々しさは、もう失われてしまった。それでも、この皺も彼と歩んだ証なのだと思うと愛おしくて。そおっと、己の手を撫ぜた。
かつて幾度も手を握ってくれた手の持ち主はもういないけれど。今もあの日々が胸のうちを熱くしてくれるから。寂しくはない。過客のような日々に遺した思い出を胸に、今日を生きている。
テーマ「過ぎた日を想う」
10/7/2024, 4:21:04 AM