ななせ

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「平和って、何なんでしょうね」

隣で呟いた新人兵を一瞥する。戦争でついにおかしくなっちまったか?

「さあな、フランスの国旗でも見たのか?」
「残念ながら愛国心なんて持ち合わせてませんよ。…平和なんて、こんなことしてまで守るものなのかなって」
新人兵は俯いていて、その表情は見えない。

「知らないな。まあ、ここに来てんのは国からの命令なんだ、逃げようなんて考えるんじゃねえぞ」
「そんなこと、考えてません。
「ただ、彼女を故郷に置いて来てるんです」
俺は深く溜息を吐いた。馬鹿馬鹿しくって仕様がない。最近の若者って奴はみんなこうなのか?
「あーあーそうかよ。言っとくがな、戦場でそんなこと言わない方が良いぞ。そりゃ死亡フラグってやつだ」

俺の言葉に、新人兵は少し腹を立てたようだった。
「はあ、まあそうですけど。
「でも、こんな一面砂色の所じゃそれくらいしか華がないですよ」
「仕方ねえよ。ま、これが終わったら酒でも飲もう」
「先輩こそ、それ死亡フラグです」

微笑んだ新人兵の体が後方へと倒れた。鋭い銃声音が鳴る。ああ、音が遅れて聞こえたんだ、一瞬頭に浮かんだことも消えてしまった。
咄嗟に体を伏せ、銃を構える。敵は既に遠ざかっていた。

新人兵はまだ意識があった。だが、出血量が多く、その意識さえ朦朧としている。素人目に見ても助からないことが分かった。

「だから言ったじゃねえか、死亡フラグだって。
「まあ、それは俺もだったが」

俺がぽつりと漏らすと、新人兵は破顔した。

「平和の意味が、分かったんですよ。だから、俺が撃たれたんです。
死亡フラグなんか、関係ありませんね」

新人兵は瞳を閉じた。昼寝をするかのように、心地よく天国へと誘われていった。
お前は考えなしだ。そんなことを言い残して、ただ一人生き残った俺にどうしろって言うんだ。

「なあ、何なんだよ。平和って。教えろよ。なあ」

どれだけ揺さぶっても、新人兵は起きなかった。



お題『愛と平和』

3/10/2024, 1:14:30 PM