ㅤ坂道で二人を見かけたのはまったくの偶然だった。その日はバイトに遅れそうで、近道をしたくなったのだ。ふだんはそんなところ通りもしないのに。
ㅤ先輩の後ろ姿は遠目からでもよくわかる。少しだけ右肩の下がった癖のある歩き方。自分だけが気づいてるんじゃないかなんて、あたしは少し自惚れてた。道の反対側に向かって、その時先輩が手を振るまで。
ㅤ夕暮れに寄り添った影が、深く容赦なくこの身を刺した。あたしは勢いよく回れ右をする。先輩に。自分の気持ちに。
——大好きだった。
ㅤムクムクと湧き上がる叫びを、歯を食いしばってあたしは潰す。
——本当は……すごく大好き。
ㅤあたしの心が、どうしてと泣く。
『大好き』
3/18/2025, 3:02:18 PM