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 夕暮れ。
 頬を撫でる冷たい風。
 名残惜しく解散して帰路につく。
 目の前はススキ畑に囲まれて、遠くの景色には山しかないのに、何故かみんな家に帰る方向は間違えない。

 自分の家へ向かって早歩き。
 日が沈む前に帰らないとお母さんに怒られる。

「にぃちゃん、まって」
「ほら、早くしないと」
「ねぇ、まって」
「お母さんに怒られる」
「まっ」

 ドサッと音がした。
 慌てて振り返れば妹が地面にべちゃっと倒れていた。
 俺は驚きすぎて固まった。
 妹は顔を上げると、目から大粒の涙を流していた。

「うぇ、うぇ」

 言葉にならない声を上げる妹に、嫌な予感がする。
 こんなところで大声あげて泣かれたら、俺じゃあ泣き止ませられない。
 慌てて妹に駆け寄った。

「大丈夫か?」
「うぇ、うぇ」
「痛いか?」
「い、いたくな、ないもん」

 妹は滝のように涙を流している。
 鼻水も出ていてぐちゃぐちゃな顔だ。
 起き上がる気配がないから埒があかなくて、俺は妹を抱き起こした。
 手や膝、服についた汚れを叩いてやった。

「痛くないなら泣くなよ」
「だって」
「プリキュアは泣かないぞ」
「プリキュアも、なくもん!!」

 自信満々に答えながらも顔がぐちゃぐちゃで台無しだ。
 俺はポケットからしわくちゃになったハンカチを取り出して、無理矢理妹の顔へ押し付けた。
 妹はイヤイヤと言いながら顔を振る。
 それでも俺は黙って顔を拭いた。
 いつの間にか、涙も鼻水も止まっていた。

「ほら、帰るぞ」

 手を差し出しても、妹は俯いたままだ。
 何か言いたいことがあるらしい。
 俺はしゃがんで妹の顔を覗き込んだ。
 妹は口をへの字に結んで拗ねていた。

「ちゃんと言わなきゃ、俺分からない」

 話を促したら、妹は口を開いた。

「にぃちゃん、つめたい」
「は?」
「にぃちゃん、こわい」
「怒ってないけど」
「にぃちゃん、ひーのこと、きらい?」

 妹の目にはまた涙が溜まっていた。
 今にでもこぼれ落ちそうだ。
 なんで妹がそんなこと考えたのか、全く分からないけど。
 急ぐあまり冷たい態度をとっていたのかもしれない。
 俺は、しゃがんだまま妹を抱きしめた。

「馬鹿だな、大好きだよ」
「バカじゃないもん」
「馬鹿だよ」
「バカっていったほうが、バカかなんだよ」
「じゃあ俺も馬鹿だ」

 くふふと妹の笑い声が聞こえた。
 ようやく機嫌が治って安心した。
 帰ろうと体を離すと、俺の膝に血が付いていた。
 妹を見れば、妹の膝から血がダラダラと流れている。

「マジで痛くないの!?」
「いたくないもん。ひーはプリキュアになるんだもん!」
「プリキュアもその怪我は流石に泣くって!」

 俺は妹をおんぶして帰り道をダッシュで走った。
 必死な俺の背中で妹は終始楽しそうに笑っていた。



『ススキ』

11/11/2024, 3:35:55 AM