竹崎セン

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My Heart

穏やかな日常の裏に、誰かの犠牲がある。 そんな当たり前のようなことに気がついているのは一体どれだけいるのだろう。

この世の間違いに気がついたとき。
私は私であることに自信がなくなった。
自分にしかできないことがあるはずだと勘違いしてしまっていたことに気がついたからだ。
ある意味、そのような考えが私をここまで追い詰めた。私を信じていた者が、その思想によって壊れていく様が私はただただ嫌だったのだ。

未熟だった。

この世の常識が、この世の全てに当てはまるはずがないことぐらい光と影が存在することくらい当たり前のことなのに。


人間生きてるだけ偉いとはいうが、果たして今の私のようなものも当てはまるのだろうか。
何時ぞやの、信念が打ち破かれただ機械のように生きていた頃と比べ今の私がいくらかましかといえば俄然そうとは思えない。
おそらく、私は何かが欠けてしまったのだ。

こんな壊れた状態でどうこの世界を見ればいいというんだ。

もうすべてが壊れてしまいそうだった。そんなとき思い出したのはもう数ヶ月会っていない彼女の存在だった。

もう限界だと訴える私を彼女はあっさり受け入れた。

肩の荷が降りると同時に、私は肺に煙が詰まったような不快感を抱いた。

私を見て微笑む姿はまるで聖母のようで、こんなに私を想っているのが分かる。
それなのにどうして面白くないと思ってしまうのだろう。

今日も私は引きこもる。
寝て、起きて、食べ、また寝る。
その繰り返し。
その生活を何年目か。
何も食べないでいると、心配して家の主がご飯を作りに来る。
あまりに甲斐甲斐しく私の世話を焼くので、何がそんなに楽しいんだと暴れたことがある。
普段なら考えられない罵倒雑言を浴びせたように思う。なのに言われた本人は私がひっくり返した皿を片付けながら笑っていたのだ。
そこまでの元気があるのなら大丈夫だと安らかな瞳で私を見る彼女に私はやっとその本質を理解した。
私も歪んでいるがまた別にこの女も歪んでいる。
その歪さに、私は救われた。
もっと私は彼女を知るべきだった。嫌われることが怖くて私は本当に脆弱な部分を隠すことに必死だった。
彼女の強さは知っていたのに、理解していなかったのだ。

あるときか、二人の養い子に聞かれたのだ。
私たちの関係を。
その瞳が、正解を求めるようにそれぞれこちらを見上げていた。
とりわけ似たものを好む二人は、はじめ私にはとびきり好意的だった。
だからこそ私を自宅に住まわせ何の対価もなく世話を焼く彼女に懐疑的だった。
どうしてあの女の好きにさせているのか二人は喚いていたが次第に母というものに飢えていたのだろう、私と一緒に彼女たちの世話をする彼女に二人は不器用なりに甘えることを覚えた。それまで私の膝の上を取り合いしていたのに、私と彼女にそれぞれ引っ付いていることが増えた。
もし私たちの間に子ができていたのなら、こんな風だろうか。
その姿を見て私は後ろ暗い気分になった。 
私と彼女の関係を説明するには一言では足りない。
盟友であり、恋人であり、親子のような。
切っても切り離せない存在であるのに、私は彼女なしで生きれないのに、彼女は私がいなくても生きていける。
それであるのに私という男しか知らない彼女は私の隣が落ち着くのだと宣う。
憎い女だ。そして、一等愛おしい。
彼女を縛り付ける手段に血と血を分けた子を考えていたことがある。
あるとき、その話を持ちかけたことがあった。
まだお互い学生だった。
このご時世だし、何より私たちが生きる世界では珍しいことではない。
いつでも私を、文句を言うこともあれど肯定する彼女はその時ばかりは首を振った。
始まってもないのに裏切られたような気分でなぜか聞き返せば、諦念を滲ませた笑みを浮かべ彼女は言った。
自分は自分と血の繋がった子を愛せる自信もない。そしてそれができる立場にもないのだと。


けれど実際の話私は自由な彼女が好きだった。
この世界に絶望した私は彼女の姿を通して無情ではない世界の姿を見出していたのだ。
歪めてしまったのは私であるのに、愚かにも変わらない姿を面白くないとも美しいとも相対した想いを抱いてしまうのだ。


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お題『My Heart』
ある男の独白。世界観は特に決めてないです。脈略がない…。

3/27/2026, 1:09:30 PM