ゆかぽんたす

Open App

私の好きな色はバラ色。どんな色かっていうと、赤とか黄色とかピンクとかオレンジとか。バラの花にありそうな色はほとんど好き。
でもこの部屋にはバラ色のものが1つもない。それどころか、白ばっかり。部屋の壁も天井もカーテンも。テーブルもベッドも手すりも、ずっとピッピッと鳴ってる機械も、全部。部屋中の白に埋もれて、私の腕さえも白く見えてくる。せめて髪の毛は黒、と言いたいところだけど、先月で全部なくなってしまった。
「今日はね、あなたにプレゼントがあるの」
いつもの時間にお母さんがやってきて、私にラッピングされた袋を見せた。
「なあに、これ」
「開けてみて」
リボンを解いて中身を取り出す。ニット帽だった。その色は、バラ色。赤も黄色もピンクもオレンジも入ってる。カラフルでとっても可愛い。私が今のように病気になるずっと前に、バラ色が好きって言ったのをお母さんは覚えていてくれた。そわそわしながら頭に被ってみる。鏡に自分を映す。でもなんだか、思ったよりも。
「どうしたの?」
「……ううん」
一瞬、鏡に映った自分が誰なのか分からなかった。髪の毛も眉毛も失くなって。死にかけた瞳の女の子が派手なニット帽を被っている。まるで帽子だけが生きているよう。もう我慢できなくて静かに帽子を脱いだ。私にバラ色は似合わない。赤も黄色も、私が身につけると死んだ色になってしまう。
「気に入らなかった?」
「……気に入りたかったけど、似合わなかった」
「そんなことないわよ」
お母さんがそっと私の手を取る。私なんかよりずっと生き生きした肌色の手をしていた。
「私に可愛い色は似合わない。白しか、似合わない」
「なら、こっち被ってみる?」
そう言ってお母さんが別の紙袋をバッグから取り出した。
「先にこっちを買ったんだけど、これじゃあまりにも地味かと思って買い直したのよ」
中身は真っ白いニット帽。お母さんがそっと私の頭に被せてくれた。恐る恐る鏡をのぞき込む。白い帽子を被った白い顔の私。でもさっきより肌の色に鮮やかさが出たように見える。帽子のほうが真っ白いからそう見えるのかもしれない。おまけにその帽子には、
「……耳がついてる!」
「そう。可愛いでしょ。白猫ちゃんね」
小さな2つの三角が、ぴょこんと私の頭に立っていた。
「ねぇ、似合う?」
「もちろん。とっても可愛い」
その後しばらくずっと、鏡の中の自分を眺めていた。お母さんが帰ってからも、ずっと。
私にバラ色は似合わない。けれど、私に白はとっても似合う。
そう言えば。白色もバラにある。
じゃあ白もバラ色だ。
私にも似合うバラ色、見つけた。

8/3/2023, 4:31:32 AM