楠征樹

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《街へ》#6 2026/01/28

「うーん……」
「何悩んでるの?」
 晶子がスマホとにらめっこしてる。ちなみに、晶子は文芸部部長。私?私はその幽霊部員1号。2号も居るけど、今日もここには居ない。チャイムと同時に、コンビニ限定のクリアファイルがどうとか言って、ダッシュしてった。いってらー。
「いやさ、お題が"街へ"なんだよね」
「ふーん」
「いや、聞いてよ、円…まどかってばー」
 聞いてるよ、顔に出てないだけでさ。晶子が言ってるのは、小説投稿アプリのお題のことだ。
「"街"じゃなくて"街へ"なんだよ。へ、ってことはさ、向かうとかそういうことじゃん」
「ああ、うん」
「うん…って、もう」
 ふくれっ面した晶子の言いたいことは、まあ、解かる。私達の住むここは、まあ、辛うじて"町"と呼べるところで、奇跡的にコンビニが出来たのが3年前。憧れの"街"は、遥か彼方だ。
「どうにかしなよ、文芸部。腕の見せどころじゃん」
 晶子の書く文は嫌いじゃない。想像力だって人一倍あるやつだ。ただ、晶子は納得いかないことは書けない性質だった。
「決めた」
「何?」
「取材…東京行く、週末」
 わざわざ?イイねが貰えるだけのアプリの為に?片道3時間かけて?
「まどかも一緒だよ」
「だから、なんで?!」
「自分の気持ちに嘘はつきたくないから」
 時折、なんか格好良いこと言うんだよな。今日のは、自分の作品の内容に、とか、そういうことか。
「今回の話、両片想いの友人同士で街へ逃避行する話にする。だから、一緒に来て!」
「話の筋決めたなら、私なんて一緒じゃなくても、一人で……」
 そこまで言いかけて、ゾクリとして、晶子の顔を思わず見つめた。差し込んだ夕日に照らされたその顔は、私のことを真剣に見つめていて……小説なんかにさして興味の無かった私が幽霊部員を買ってでた訳は……。
「解った」
 私は、同行することを承諾した。ただ、条件を一つ付けた。
「その話、ハッピーエンドじゃなきゃ嫌だからね」
「もちろん!」
 晶子の、夕日の中で輝いた笑顔は、最高に綺麗で…この顔が見られるのだったら、街へでもどこでも付いていってやるよ。

1/28/2026, 2:24:56 PM